研究員コラム

2010.12.15田口 智博

シリーズ「人と機械の相性」#2人と機械の最適解を目指すために

 先日、とある家電量販店に出掛けてエレベーターを利用しようとした時のことである。ベビーカーを押す若い母親が、満員のエレベーターを目の当たりにして、「これ、優先エレベーターなんですけど!」と激しい怒りの口調で訴えていた。あまりに唐突なことで状況はすぐに理解できなかったが、どうやら優先エレベーターにもかかわらず、到着するたびに満員で乗れずに業を煮やした末の発言だったようだ。結局、その場は数名の若者がその発言に圧倒されるように止む無くエレベーターから降り、母親はベビーカーとともに乗って収まった。

 複数のエレベーターが設置されている施設の場合、大抵は「優先エレベーター」と表示されているものがある。車椅子やベビーカーなどの利用者が、なるべくそれを優先的に利用できるようにと配慮されている。要は、電車やバスが設けている優先座席と同じである。とはいえ、優先のエレベーターや座席は、必ずしも一般の人が利用してはいけないという決まりではない。実際、エレベーターの場合では扉が開くまで、乗ろうとする側、乗っている側ともにお互いの状況が分からない。そのため、今回のようなケースでは、双方の人の意識や振る舞いといった点で配慮が問われてくることになる。

 そんなことを思いながら、エレベーターというと、最近では百貨店などが高齢者の安全面に考慮して、扉の開け閉めのスピードが妙に緩やかになっている印象を個人的には受ける。実際、エスカレーターの場合、速度は通常の6割程度に落とし、高齢化仕様にしているという話も聞く。こうした設定には年齢層が若くなるにしたがい、じれったさを感じる人も少なくないのではないか。
 これと似たような場面は、他にも身近なところで見受けられる。たとえば、横断歩道の青信号の時間が、歩行者が無事に渡りきることができるようにと、ある場所ではこれまでの14秒から17秒へと延ばされていたりする。ドライバーにとって、このぐらいは些細な時間の変化かもしれないが、その背景には高齢者が横断歩道を渡りきれず交通事故に遭うケースが年々増えていることがあるからだ。

 これらを通して、人と機械の相性というものを考えてみると、そこにはどのような人を対象に、どのような機械の設定を行うかということが常にある。よって、その受け止め方は一様にはなりえないことが容易に想像できる。つまり、ここで言う"人"は、必ずしも不特定多数とはならないということである。

 かつて、人と機械の相性というと、真っ先に「効率性」や「生産性」ということが重視されてきたことは間違いない。またそれらは、大多数の人にとって比較的受け入れ易いものでもあった。前回の中間さんのコラムにある、"「人と機械のベスト・マッチング」の測り方"という問題提起があるが、これからは従来とは違った尺度で測らなければならないことは確かであろう。
 現在は高齢者が増えているという一面を捉えて、「安全」や「安心」といったことが要因の一つとなり、機械のチューニングに大きく影響していることが窺える。今後もその時代において鍵となるものを最大公約数的に共有し、それに基づいて人と機械の関係の最適解を見出すことが必要になってくるであろう。そしてその最適解を理解するためには、まずは人がお互いを慮れる心を持つ社会というのが大きな前提となるはずだ。
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