研究員コラム

2010.07.15田口 智博

シリーズテーマ「予兆」#2『日本モデル』が未来をつくる

 近頃のニュースに耳を傾けていると、「社内の公用語を英語にする」といった発表を行う日本企業が増えつつある。企業では今後、海外展開の強化や外国人採用の増加などを一層図るための土壌づくりが進められようとしている。従来、"グローバル化"というと、どちらかと言えば言葉が先行しがちの印象を抱いていたが、いよいよ本腰を入れた取り組みが活発化しつつある。ちょうど今回のコラムテーマである日常の中からの予兆として、こうした動きはこれからの国内における国際化の流れを占う一つであろう。

 また前述のニュースとともに、少し前からは"スマートグリッド"という見出しを新聞等でしばしば目にする。この言葉は、アメリカ・オバマ大統領が就任時、「グリーン・ニューディール政策」の柱として掲げたものである。環境・エネルギー関連への大規模な投資が多くのビジネスチャンスを生み出す可能性を持つことから、一躍注目を集めるようになった。そもそもスマートグリッドとは、気候変動やエネルギー危機の解決に向けて、今後普及が見込まれる再生エネルギー等も活用しながら、電力の流れを供給側・需要側の両方から制御し、最適化する送電網を一般的には意味している。

 そんなスマートグリッドに関して、先日、京都大学大学院情報学研究科・松山隆司教授の講演を聴く機会があった。松山教授は、経済産業省が推進する次世代エネルギー・社会システム実証の一地域として選ばれた京都府けいはんな学研都市での取り組みに携わる方でもある。
 その中では、一括りにスマートグリッドと言っても、アメリカ・ヨーロッパ・日本それぞれで、取り組もうとしていることが異なるという指摘があった。国や地域のエネルギー事情が様々であることを考えると、確かにそのようになるだろうと納得させられる。では、個別にどう取り組みが異なっているかというと、アメリカでは、元来、電力供給が不安定であるため、電力会社の要求に消費者が応えて電力を使用する仕組みづくりを目指す。一方、ヨーロッパでは、太陽や風力によって分散発電させた大規模な自然エネルギーを積極的に使用する仕組みづくりを目指す。そして、京都はどうかというと、消費者が使用するエネルギーの情報化を進め、その要求に対して電力提供者が既存の発電電力や自然エネルギーを割り振って応える仕組みとなるそうだ。
 ここでの決定的な違いは、アメリカモデルでは電力会社の要求が主体となって需要抑制を図る。まさにスマートグリッドという言葉そのものの送電系統の取り組み。それに対し、京都モデルでは消費者の要求が主体となって、エネルギーマネジメントの取り組みに位置付けられるという点である。京都モデルでは、たとえ電線がない地域であったとしても、電力提供を可能にする。まさに、このモデルだけが世界中のどの地域においても通用するようなシステムを目指しているという。

 最近では、今の日本の置かれている状況について、かつての欧米を目標としていた時代とはうって変わって、自らがビジョンを掲げて進んでいく必要があるという話をよく耳にする。今回のスマートグリッドの話では、ちょうどそれを実行に移すべく、アメリカやヨーロッパの追随ではなく、日本独自のモデルを生み出していこうとする動きが窺い知れる。今日の閉塞感溢れる社会の中からの脱却に向けた予兆として、多様な分野において、こうした『日本モデル』というものの誕生への期待がおのずと高まる。
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