研究員コラム

2009.10.15鷲尾 梓

シリーズテーマ「働き方」#2働き方という「磁石」

 「働き方も、チェンジの波に乗ったらいい」-第1回のコラムの提案に、私も賛成だ。長く続けてきたやり方を見直すには思い切りが要る。エネルギーが要る。大きな「波」が生じつつある今は、確かに好機だ。しかし、そもそもなぜ、働き方を見直す必要があるのだろう。働き方を見直すことで、仕事の面では、どんな良いことがあるのだろう。今回は、「働き方がなぜ重要なのか」について考えてみたい。

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【患者様へのお知らせ】
来月から診療時間が変更になりますのでご注意ください。
変更前: 10:00~20:00
変更後: 10:00~19:00
・・・

歯科医院の待合室に掲げられた診療時間変更のお知らせに、「困ったな・・・」。19時まででは、仕事帰りに寄りにくい。小売業も医院も、営業時間や診療時間を延ばすところが多い中、短縮するというのは珍しい。どうしてなのだろう。貼紙には続きがあった。

ミスの許されない医療現場では、医師やスタッフが心身ともに健康であり、常に万全の体制で医療行為にあたることが不可欠です。安全で、より質の高いサービスを提供するために、診療時間を短縮することを決めました。何卒ご理解とご協力をお願いいたします。

 -なるほど・・・、そういうことならしかたがない。次回の予約は、週末の予定を調整して入れることにした。-が、そういう人ばかりとは限らない。平日の夜に通っていた患者の中には、より遅くまで診療してくれるところにうつる人もいるはずだ。診療時間を早めるというのは、思い切った決断だったことだろう。しかし、この医院にはいつもたくさんの患者がいて、予約を取るのも大変なくらい。近所での評判がいいのは、医師の技術や人柄だけでなく、スタッフの対応の気持ちよさによるところも大きいようだ。どの人もみな、活き活きと働いているのだ。

 「仕事を通して、自分たちがまず幸せにならなきゃダメだ」-以前目にしたインタビュー記事の中にあった言葉を思い出す。積極的な宣伝を行わないにも関わらず、リピーターを中心に絶大な人気を誇り、予約が取りにくいことでも有名な長野県の仙仁温泉「岩の湯」の主人、金井辰巳さんの言葉だ(※)。「岩の湯」は、年末年始を含めて年間27日が休みだという。従業員が家族と過ごす時間を大切にする。そうしないで、家庭を犠牲にするような働き方を求めていては、本物のプロになれるような人材は寄ってこない、というのだ。「いくらふるさとだ何だと言っても、心に入っていかない」という言葉には、重みがある。

 従業員が幸せで、仕事を大事に思い、ゆとりをもてれば、笑顔も自然な笑顔が出る。質の高いサービスにつながる。それが、どんなに優れたマニュアルを用意しても真似のできない価値となり、顧客を惹き付ける。さらに、そこで働きたいという人も惹きつけて、よい循環が生まれていく。働き方を考えることは、組織の中に、目に見えない大きな磁石をつくることなのではないか、と思う。

次回第3回の担当は、内藤さん。企業文化や、組織風土についても研究してきた内藤さんの視点からの意見も聞いてみたい。2週間後をお楽しみに。


※東洋経済新報社 週刊東洋経済 2009/3/28号 「日本人の『旅』大解明」
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