研究員コラム

2009.08.01田口 智博

生態系を見つめ直すきっかけ

 つい先日、"羽なしテントウムシが誕生、害虫駆除に有用"という見出しのニュースを目にした。テントウムシと聞くと、一般になじみのある黄赤地に7つの黒紋をもつ愛嬌あるナナホシテントウの姿が頭に思い浮かぶ。そんな中、報道された内容によると、テントウムシは農作物に付くアブラムシを食べるため、既に国内外の農業で害虫駆除に利用されている。したがって、そこに羽のないテントウムシを用いることができれば、飛んで逃げる心配がなく害虫駆除の効率が上がり、また農薬を使用せずに済むため環境にも優しくなることが期待されるという。

 最近のさまざまな分野での日進月歩の科学技術には目を見張るものがある状況で、バイオテクノロジーによって羽をつくる遺伝子を特定し、その機能を阻害する指令を与える技術を用いたという今回のニュースも、驚きをもって聞かされることとなった。しかし、その一方で、子孫は羽のある正常な個体が生まれるというが、そうした生物本来の姿に人が手を加えることによって、自然界の生態系などに及ぼす影響は果たしてないのだろうかと一抹の不安が頭をよぎる。

 生態系ということについて、以前見たオーストラリアで大増殖する毒ガエルの特集番組が印象的な内容であった。それは、サトウキビに付く害虫を退治するため、それまでオーストラリアに生息していなかったヒキガエルの一種を国外から持ち込み、害虫駆除に利用しようとした試みが裏目に出たケースであった。つまり、そのカエルは本来、期待された害虫駆除には力を発揮せず、今ではその体に毒を持つ特徴が仇となって、オーストラリア各地で固有種をはじめ多くの生物を死に至らしめるなどの悪影響を及ぼし、生態系に深刻な打撃を与えているという。現地では、そのカエルはケイン・トード(cane toad)と呼ばれ、直訳でサトウキビ・ヒキガエルとなるが、その呼び名にあるサトウキビの害虫駆除はせず、まさにtoadのもう一つの意味である"嫌なやつ"となってしまっている。そして、現地の住民たちは、カエルの捕獲作戦や捕まえる罠の開発コンテストを行うなど駆除に奮闘するが、問題の解決に向けては焼け石に水という厳しい現実がその番組を通して映し出されていた。

 しかし、そんな状況に至った経緯をよくよく見てみると、そこには人の安易な行為によるところが多分にあることがわかってくる。それは、そもそもそのカエルは夜行性であるため、太陽の陽射しが降り注ぐ昼間、害虫の活動中には、それらを捕食するような行動は起こしにくいということである。また、サトウキビは、それが立ち並ぶ姿をイメージするとわかるように、地上から真っ直ぐに茎が伸び、そこに葉が生い茂るため、カエルのジャンプ力をもってしても害虫のいる高さまで到達すること自体が困難だということである。つまり、人がカエルを持ち込む前に少し頭を働かせれば、害虫駆除としての効果は期待薄であることがいとも簡単に見えてくるのだ。

 こうしたことは人の人間中心主義的な考え方による振る舞いが発端となり、取り返しのつかない状況を生み出すということを顕著に示す例である。冒頭で触れた今回のニュースを通してみても、今日の科学技術の輝かしい進歩を再認識する一方で、私たちを取り巻く生態系というもの大切さをあらためて見つめ直すことが必要ではないだろうか。
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