研究員コラム

2009.06.01鷲尾 梓

つながる旅人 ~SNSがもたらす新たな旅の形~

 「カウチサーフィン」というSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)をご存知だろうか。世界各国の会員が、旅先でのカウチ(宿泊先)や仲間を求めて情報交換する場を提供するというものだ。今年会員100万人を突破し、急成長中なのだという。

 宿泊は無料で、カウチ提供者に金銭的なメリットはない。提供のモチベーションは、旅人との交流を楽しんだり、その機会を通して仲間を得ることにあるようだ。

 このサービスについて知ったとき、「ついにその時代が来たのか」と思った。以前このコラムにも書いた、セバスチャン・メルシエールの「2440年-確かなる夢」という本のことを思い出したのだ。「国民はみな豊かになり、ホテルはなくなり、旅をしても、どこの家庭でも旅人をあたたかく迎え入れてくれる」-彼が思い描いた未来の片鱗が、そこにあるような気がした。

 サイトをのぞいてみると、現在の会員数は約114万7千人(2009年5月末)。会員全体の7割が18~29歳と、若者の利用が中心となっている。日本でも3千人超が登録し、それぞれのページには、詳しいプロフィールや、宿泊希望者に守ってもらいたいルールなどが書かれている。中には、毎日のように宿泊者を受け入れている人もいる。

 お金がかからないということは、若い旅人たちにとって大きな魅力であることは間違いない。それに加えて、一般の人の家に泊まることで、その国の文化をより身近に感じることができるという魅力もあるのだろう。自身の経験を振り返ってみても、留学中、大学の講堂で学んだのと同じくらい、あるいはそれ以上に、ホストファミリーとのやりとりから多くのことを学んだように思う。長期間でなくても、ホテルに泊まって観光名所をまわる旅とは違う経験ができるはずだ。

 それでも、知らない人の家に泊まったり、自分の家に泊めたりすることには、当然不安が伴う。「カウチサーフィン」では、SNSの機能を使って交わされるメンバー同士の評価やコメントが、お互いを知るための手がかりとして利用されていた。SNSという道具が、新たな旅のあり方を可能にしたというわけだ。

 旅人がSNSを使って宿探しをしていると知ったら、メルシエールはなんと言うだろう。現状はまだ、2440年の「確かなる夢」に向かう過程に過ぎないのかもしれない。けれどそこには、「こうであったらいいな」と思う未来に向かって、静かに、でも着々と根を伸ばす若者たちの姿がある。

【参考】
○ カウチサーフィン オフィシャルウェブサイト
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