COLUMN

2008.08.01田口 智博

自動車購入に見る国民性

 今、世界ではBRICsと呼ばれるブラジル、ロシア、インド、中国という新興国の経済成長が目覚ましい。それぞれの国内の自動車市場を見ても、新車販売台数は年々右肩上がりとなっていて、とても好調である。

 そんな中、以前、ブラジルの好調な自動車市場の調査を行う機会があった。調査の結果は、ブラジルの経済成長が進む中で国民の所得が上昇し、それが直接的に自動車販売の増加に結びつくという、至って単純な図式であった。
 ただ、ブラジルでは、もともと中古車市場の規模が大きく、これまで多くの人々が中古車への買い替えを行っていた中、経済面での向上により新車への買い替えが増加し、それが新車販売台数を押し上げているという傾向があった。
 また、もう一つ、ブラジルならではという特徴があった。それは、ブラジルでは車に限らず物をローンで購入するケースが比較的多いということである。たとえば、「自動車を購入するとき、どうしますか?」と質問をされると、日本では、一般的に車の販売店に赴き、車両本体の総額を確認した上で、購入するかどうかを判断するということになる。一方、ブラジルでは、車の販売店に赴くところまでは日本と同じだが、店頭には車両本体の総額ではなく月々いくらの支払い額から購入可能かといった表示がされており、それを確認して購入するかどうかを判断するということになる。ブラジルでの車の購入者にとっては、重要な情報は月々いくら支払うかであり、購入の判断基準はそれが当面きちんと払えるかということになる。つまり、所得の上昇により月々の支払い能力に余裕が生まれていることで、自動車購入の動機付けに大きな影響を与えていることになる。この背景としては、ブラジルでは、過去にインフレなど経済情勢が不安定な時期が続いたことから、お金より、資産として物を手元に持っておくことによりウェイトが置かれているということが考えられる。

 経済成長には、個人消費が重要なファクターとなる中、ブラジルではこうした人々の自動車をはじめとする消費行動の特徴が、その急速な成長に大きく関係していることが窺える。

 「国民性」という言葉によって表現されることがあるが、日本とブラジルにおける消費行動を例にみても、その違いがよくわかる。国によって文化・歴史が違うように、経済成長においても、そのスピードや中身に国民性の違いというものが大きく影響しているということが感じられた。そうした中、現在、地球温暖化などグローバルな問題が大きくなっており、これまでのように世界全体が成長一辺倒では立ち行かない状況になりつつある。これからは国民性を大切にしながらも、グローバルな視点で物事を考えることができ、そこに調和・協調が加わった国際人であることが求められてくる。このコラムを書く中で、一般的なイメージとされる日本人の勤勉さと繊細さ、ブラジル人の大らかさと陽気さが上手く融合すると、それは程良く国際人の資質となるのでは、と思った。私も様々な場面でバランス感覚を大切に、これから国際人として生きていけるように心がけたい。

 前職では自動車市場の分析など自動車に関することを仕事にしてきましたが、7月からHRIで働き始めています。これまでの経験もベースとしつつ、これからの社会がどのように進んでいくか、また、そうした中でどのような未来のビジョンが描けるか、多くのことへの興味・関心を大切に日々の調査・研究を通じて、情報発信や提言をしていきたいと思っています。
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