COLUMN

2008.06.01鷲尾 梓

強い森をつくりたければ

 いろいろな木を植えなさい。
 ひょんなことから、笹ばかりの土地を切り拓き、小さな森づくりをすることになった。「何を植えたらいいでしょう?」と、詳しい人に相談をしてまず言われたのが、このひと言だった。

 いろいろな木を植えれば、春夏秋冬、季節ごとの楽しみができる。そして何よりも、病気や害虫に強くなる。木を植えるということは、そこに生き物を呼ぶということだからと、その人は教えてくれた。木を植えればそこに虫が来て、その虫や、木になる実を食べる鳥が来る。それが多様であるほど、生態系のバランスが崩れにくく、よい状態を保ちやすくなる。万が一トラブルが発生しても、全体に広がってしまうようなことも防げる。だから、強い森をつくりたければ、いろいろな木を植えなさい。
 
 「多様な木を植える」という行為は、木々が引き寄せる生物や、それらが全体として織り成す生態系への深い理解、そして、不測の事態や人間のコントロールを越えた事態に備える、先人の知恵に裏付けられているのだ。

 考えてみれば、人の集まる組織にも同じことがあてはまる。
「ダイバーシティ」(性別や年齢、人種、民族、勤続年数、バックグラウンド、階層などの属性の多様性)の重要性が指摘されるようになって久しいが、その現状に目を向けると、「法令遵守」や「社会的責任」という観点からマイノリティを受け入れている、というように、受身的な捉え方に留まっている組織も少なくない。

 多様な人材を採るということは、多様な個性や能力を獲得することであると同時に、その人たちにつながる多様な人々や価値観を引き寄せることでもある。そしてそれは、リスクに強い組織をつくることにもつながるはずだ。しかし、多様であることの強さを信じ、積極的に活かすことができている組織は、まだあまり多くないのではないだろうか。

 そんなことを考えながら、時間をみつけてはひたすら笹を刈っている。刈った後からはすぐに、また勢いよく笹の子が生えてくる。張り巡らされた笹の根は強く、笹との追いかけっこは3年は続くらしい。森づくりの本などを読んでいると、「10年経ったら~をして、さらに10年経ったら~を・・・」と、10年単位、100年単位の話が書かれていて気が遠くなる。しかし、森づくりというのはそういうものなのだ。未来を想い描きながら、目の前のことに向き合いながら、一歩一歩進んでいくほかない。ライフワークのひとつとなった小さな森づくりに、これから教わることは多そうだ。
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