COLUMN

2020.11.01田口 智博

“希望づくりのお手伝い”という価値創造

 社会では、2030年までに解決を目指す国際目標「SDGs(=Sustainable Development Goals)」の達成に向けた動きが、さまざまなところで日に日に目立つようになってきている。また、企業を取り巻く状況でも、環境(Environment)や社会(Social)、ガバナンス(Governance)を重視した経営を行う法人に対して、市場から資金が集まるESG投資の採用が進む。最近の保険会社をはじめとする機関投資家の顔をもつ側が、あらゆる投資にESG評価を組み入れる方針を打ち出すといったことからも、それは顕著に窺える。

 このようにSDGs、ESG投資といった社会やビジネスのあり方を大きく変えうる潮流に誰しもが注目し、そこから従来とは異なる変化や対応の強化による取り組みが加速する。なかでも、企業には新たな事業機会の探索や組織のあり方の見直しが、これらを契機に待ったなしで求められようとしている。
 特に国内の動向に目を向けると、高齢化や人口減少の諸問題を背景に、企業にとっては社会課題の解決こそがビジネスの機会であるという声が聞かれることも少なくない。実際、自社だけでなく社外での議論などを通じても、いま今の社会潮流を捉えることによる課題意識は、そう大きく変わらない実感をもつところだ。

 かくいう私も、今年度の上期、少子高齢化という社会潮流を踏まえて、「中小をはじめとする企業の事業承継」に関する課題解決を通じた事業を考えられないだろうか?と検討を進めていた。経産省がリリースする白書やレポートでも、こうした課題は多分に指摘されているところである。したがって、そこでは課題認識はあるものの、これまで着手困難であった事象に対して、ユニークな事業機会をどのように見出していけるのか?という答えを導くことが鍵となってくる。
 そんな折、愛知の岡崎ビジネスサポートセンター(※)でセンター長を務められている、秋元祥治さんと事業承継に関するお話の機会をもたせていただいた。岡崎市で中小企業の売上アップを目的に相談支援を行い、“行列のできる中小企業相談所”として口コミやSNSで評判を呼び、相談は1ヵ月待ちの状況が続く盛況ぶりからも注目がなされているところだ。
 秋元さんご自身も、NPO法人の代表理事をされていた経験から、事業承継には大きく3つのポイントがあるという。一つ目は「事業モデル・仕組み」、二つ目は「継承する人・組織」、三つ目は「事業が回る2~3年分のキャッシュ」。これらがしっかりと受け渡しできる状態として揃うタイミングでなければ、事業承継は困難を極めるとのことであった。確かに事業承継では、一般的に5~10年程度の期間を要するという調査結果があり、まさに指摘されている3つの準備にかかる時間という見方もできる。
 また、日頃から中小企業の相談に乗る中で、事業承継という課題はなかなか顕在化せず、気づいた時には既に手遅れという状況が往々にしてあるという。その一方で、課題の原因を突き詰めてみると、企業の経営状況が芳しくない事業者において、こと事業承継は深刻さを増すのではないかとの指摘であった。企業の売上が伸びていれば、人材がその企業に集まり、事業承継がしやすい状態がおのずと構築されていくに違いないからだ。

 あらためて、売上や働きがいの向上をはじめとする日頃の取り組みの積み重ねを通じた事業活動の進化が、企業にとって事業承継リスクの低減につながるとの認識をする機会となった。それには、中小企業の当事者の立場に寄り添い、秋元さんの言葉を借りるなら、“相談を通じた希望づくりのお手伝い”といったスタンスからアプローチしていくことは大きな意味をもつことになるに違いない。
 社会課題を俯瞰的に捉える中で、ついつい課題の解決・解消について考えがちになるが、求められていることは、現状をいかに良い方向にもっていけるかということに尽きるはずだ。オムロンが掲げるソーシャルニーズの創造は、そもそも社会課題によるマイナスをゼロに戻すだけでなく、ゼロをプラスにシフトさせていけるような価値創造を目指しているのだから。
PAGE TOP