研究員コラム

2020.01.14矢野 博司

自律社会における創造について

 あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

 現在、私は、SINIC理論を事業に活用してもらうためのセミナーやワークショップのプログラムづくりに引き続き取り組んでいます。SINIC理論に興味を持ってもらい、未来の社会としての自律社会を自分事として考えてもらうためには、どうすればよいのか、考える日々です。
 SINIC理論では、現在の最適化社会から、価値観が「こころ」中心、「集団」中心となる自律社会に移行するとあります。自律社会とはどのようなものでしょうか。HRIでは、自律社会の構成要件を3つの要素(自立と連携、創造)で捉えています。(図参照) この3つの要素を拡げていくことが、自律社会につながっていくと考えています。
 とは言え、特に創造力を高め、拡げていくことの難しさに直面しています。創造とは、「新しいものを初めてつくり出すこと」とあり、0から1を作るイメージがあります。どのように創造性を拡げていけばよいのでしょうか?

 先日、2つのシャツメーカーのカスタマイズを体験し、創造性を高められるのではないかと思ったことを記載します。
 ひとつめは、紳士服のシャツです。店員が顧客の寸法を計測し、要望を聞き、様々な生地、色やパターンを提示し、客が選択しながらシャツを作ることを体験しました。紳士服のシャツは首サイズや袖など細かに分かれているものの、私の場合、袖で合わすと、胸がきつくなったり、胸当たりのサイズで合わせると袖が長くなったりで、自分の身体にぴったりくるものはなかなかありません。そのため、サイズを計測してもらえるカスタマイズはありがたいです。ただし寸法計測だけでなく、店員との会話を通して、客の好きな生地、パターンや色を店員が把握し、そのサンプルを提示し、客の仕様を明確にしていきます。そうすることで、客は自分の好みを言語化できるだけでなく、サンプルを提示してもらえるので、好みのシャツが目の前で実現していく様が面白いのです。また、会話を通してシャツに関する知識(色や生地だけで無く、袖、襟、前立て、ポケット、ボタンなど)が得られて、楽しい時間が経験できました。
 ふたつめは、ボーダーシャツです。通常の生産時において発生した様々な生地の端切れを使って、客が好みの色、生地を選択し、ボーダーシャツに仕上げることを体験しました。ここでは、自分のサイズを確認し、メーカー側が提示しているデータ(袖やフロント、バックなどの寸法サイズ表)を、確認します。その寸法と端切れを照らし合わせて、自分で計測しながら端切れを選択します。ここでは、自分が計測した端切れの組み合わせを通して、好みのシャツが目の前で実現していく様が面白いのです。また端切れを使うため、通常のシャツよりも安価なコストで入手できますし、エコロジー的な活動感覚も得られて、楽しい時間でした。いずれのシャツもできあがりが楽しみです。

 いずれの体験も、0から作るのではなく、そのメーカーのプロセスの一部分を顧客が担うことで、顧客(自分)の想いを実現しています。顧客としては、自分の想いが実現していく様を見るのは面白いですし、単なるものが得られるだけでなく、+αの体験が得られましたし、メーカーに対しても共感を感じ、今後の購買意欲もわいてきました。メーカーとしては、顧客の想いを直接聞くことができ、顧客の感覚を目の当たりに体験することで、今後のものづくりにフィードバックすることもできますし、モチベーション向上につながると思います。
 つまり新しいものを作ることも大切ですが、現状のプロセスやデータを一部を顧客と共有することで、顧客の創造を支援できるのではないでしょうか。メーカーならではの支援があれば、顧客から新たな発想が得られると思いますし、顧客も新たな体験をすることができ、メーカーに対するロイヤリティも高まるのではないでしょうか。

 創造性を切り離して考えるのではなく、連携することや支援するようなこうした取り組みの積み重ねが、社会としての創造性を高めるきっかけになるのではないか。自律社会の拡がりにつながるのではないかと考えています。
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