COLUMN

2019.07.11矢野 博司

オノ・クラスボーン教授講演会を聴講して

 現在、私は、SINIC理論を事業に活用してもらうためのセミナーやワークショップのプログラムづくりに取り組んでいます。SINIC理論に興味を持ってもらい、未来の社会イメージを自分事として考えてもらうためには、伝えたいメッセージの抽出、そのメッセージの説明順序や、理解を促進するための問いなど、検討すべき点が多い上に、実際に説明してみると、共感や理解を得られずに悩むことが多いです。

 そこで、その悩みを解決するきっかけになればと思い、先日、国立情報学研究所で開催された、ろう者間の国際コミュニケーションの研究を進めているオノ・クラスボーン教授の「人は共有言語なしに意思疎通できるのか? 国際手話の事例から」という講演会を聴講しました。(http://research.nii.ac.jp/~bono/ja/event/Onno.html)

 まず、タイトルに惹かれました。SINIC理論のセミナーでは、理論を知らない人とコミュニケーションするわけです。理論という知識を共有していない中で、互いに意思疎通し、理論を知ってもらうだけでなく、共感し、自分事として考えてもらおうとしているわけです。それができるかどうか、事例からヒントを得たいと思ったわけです。

 講演内容の詳細は、オノ・クラスボーン教授の論文(https://radboud.academia.edu/OnnoCrasborn)を読むことになります。概要は、以下の通りです。
 現在、ろう者は、音声言語の世界に育ち、西欧諸国の場合では、ろう者の95%が、手話言語を必要としていない両親を持っています。つまり、ろう者は、家族との会話や、学校や店での会話など、音声言語を使用する人たちとの日常的なやりとり中で、様々な手法を駆使してコミュニケーションをとる訓練やスキルを積み重ねています。普遍的な視覚情報を活用した手話や、あいづちなど、ボディランゲージも含めたマルチモーダルなコミュニケーションスキルが、異なる文化間のコミュニケーションにおいても、会話を成立させている大きな要因ではないかとのことです。

 手話が持つ視覚的な機能を使うだけでなく、ろう者の手話言語間コミュニケーションや、手話と音声言語間コミュニケーションにおいての数多くの経験を日常的にこなし、コミュニケーションしたいという切実な意志が、コミュニケーションを成立させているのだと感じました。

 私は、SINIC理論を事業に活用してもらうために、単にテキスト情報だけで伝えようとしていなかったか、伝えたいを伝えようとして様々な方法を試していただろうか、と自分に問いかけています。
説明資料に視覚的な要素を使用し、ワークショップでは、身振り手振りなどあらゆる方法を使って伝えていただろうか。やはり、時間的な制約があり、伝えたいことの整理ができずに、伝えることにどこかであきらめていたと思います。

今後は、伝えたいことを絞り込み、時間的な制約の中で、様々な方法を試して、伝えることをあきらめないようにしようと思っています。そのためには、身近なところから様々な方法を試し、伝えるスキルを磨き続けていきたいとも思います。また、異文化間のコミュニケーション手段として手話を習い始めようかと思っています。


以下の写真は、講演が終わった後の手話言語による拍手。
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