COLUMN

2018.10.01矢野 博司

サイバネティックスにおける知の繋がり

先日、上野の森美術館で開催された「世界を変えた書物展」を見てきました。

金沢工業大学が所蔵する、工学系の稀覯書コレクションの中から、世界を一変させた科学技術資料を一覧展示するものでした。稀覯書(きこうしょ:世の中に流伝している部数がきわめて少なく、稀(まれ)にしか巡り合うことができない本)のため、ガラスケース入りで、手に取ってみることはできないですが、様々な知性が絡み合い、知が進化してきたことが実感できる展示でした。

展示入口には、「知の壁」の展示です。膨大なコレクションや様々な知識がつみあがってきたことを感じさせる書棚です。この展示で圧倒されました。(左上写真)
その後、「知の森」という形で稀覯書を中心とした展示(右上写真:ニュートンのPRINCIPIA)になり、「知の繋がり」と展示が続きます。「知の繋がり」では、知の連鎖を立体的な表現や年表の形に表して、知の進化を体系的、系統的に理解ができ、楽しめました。
「知の繋がり」の中で、世界を変えた書物として、オムロンのSINIC理論のベースとなったノーバート・ウィーナーの「サイバネティックス」についても言及があり、わくわくしました。

さて、サイバネティックスは、1948年のノーバート・ウィーナーの著作で、数学、科学、化学、電子工学、通信工学、医学など14もの学問からなる科学です。この広範囲にわたるサイバネティックスは、ウィーナーが「知の繋がり」を、実際に行い、まとめあげたもので、経緯や歴史は、彼の著作(サイバネティックス、人間機械論、サイバネティックスはいかにして生まれたか:下写真)などに記載されています。
その著作の中には、彼が様々な分野の学者と交流し、知を繋げていくために、留意したことも記載されています。

ウィーナーは、科学が専門化していることから、それぞれの分野の境界領域こそが、新たな科学技術領域を作り出すものであるという信念をもっていました。そのため、これらの新しい領域への探求は、一つの部門の専門家でありながら同時に隣の部門にも理解のある科学者たちのチームによってはじめて成功すると考え、各国、各分野の研究者と協同研究を推進しました。

その協同研究の中で、ウィーナーは、研究領域を全体として理解することや、その理解によってお互いに力づけたいと思っていたようです。
特に、互いに他の人や分野の考え方の習慣を知り、同僚が新しい提案をするときには、それが完全に整った形で表現される以前に、その意義をくみ取ることのできるようなチーム編成に苦心したようです。つまり、チームメンバーの共通の考え方の基盤を探し、その基盤から共同の語彙を見つけ、それらを使い、目的に沿って語り続けていく努力を重ねていたようです。これらの努力の中でヒントを得て、知を繋げて、サイバネティックスをまとめあげたと思っています。

サイバネティックスをベースとしたSINIC理論も、知を繋げていくことが重要な鍵になります。
SINIC理論に基づいた未来を提示し、新たなソーシャルニーズを見つけ、様々な商品やサービスによって、社会を進化させていくためには、その商品やサービスにかかわる人々の共通の基盤を探し、皆が理解できる言葉にして、語り続け、時には互いに力づけながら、知を繋げていく必要があると、実感しました。「世界を変えた書物展」、ノーバート・ウィーナーのサイバネティックスなどから、知の繋がりを意識していきたいと思う今日この頃です。
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