COLUMN

2018.02.01田口 智博

起業家を通して未来をイメージする

 昨年11〜12月にかけて、ベンチャー企業の経営者、いわゆる起業家に話を聞いて回るという活動をした。その間、訪問した企業の数は11社。きっかけは、起業家の方々がそれぞれの想いに根差して立ち上げた事業の先に、一体どのような未来をみずからの手で創り出そうとしているのか。また、それは現在の延長線上に収まりきらない、どこか不連続かつ思いもよらない姿が描かれているのではないだろうか。そんな興味と期待を抱いて、経営者の頭の中を垣間見せてもらおうというものだ。

 話を伺う先の一つとして、リンカーズ(株)というオープンイノベーションの支援サービスを展開する企業を訪ねた。「Linkers」というサービスプラットフォームを構築し、たとえば、新たな技術の探索を望む企業に対して、それに見合う技術を保有する企業との出会いの場を提供する。つまりは、企業と企業のマッチングである。そこだけを切り取ってみてしまうと、目新しさは確かに感じられない。
代表取締役社長である前田佳宏氏のお話にじっくりと耳を傾けてみると、そこには特筆すべき点がみえてくる。それは、マッチングする企業同士が、これまでは業界・業種が違い過ぎるとそもそも出会えなかった。あるいは、お互いの想いや熱意が深く確認し合えず、出会えたものの上手く目的を達成できなかった。そうしたオープンイノベーションという言葉が掛け声だけに終始しがちな現状の壁を、このサービスが取り払い、イノベーションを頻繁に起こせるようにしていくという。まさに、“別次元の産業構造”を築くという未来の姿を視界に入れながらの事業である。その実現に向け、現在はこれまで人がマッチングに介在していた部分において、AIといったテクノロジーの導入を加速させている。既に人の経験や勘頼みではない新たなマッチングによって、成果が着々と現れてきているそうだ。

 もう一つ、別の訪問先を取り上げてみると、(株)オリィ研究所という人同士の距離や身体的問題の克服につなげる分身ロボットの開発・提供を行う企業でお話を伺った。「OriHime」というコミュニケーションロボットを介して、人がそれを操作することによって自己表現できる“もう一つの身体”を持てる状態をつくり出している。現在、世の中はロボットブームと言って過言ではないくらいに、さまざまな分野でロボットが導入されるとともに、そうした話題に事欠かない。ついつい、このロボットもそうした一つとして片づけてしまいがちだ。
 みずからロボット開発を行う代表かつロボットコミュニケーターの肩書きを持つ吉藤健太朗氏は、人の抱える孤独感をどのように解消するかという問題意識を持ち、事業に取り組んでいるという。そこには、自動化・機械化が進む一方で、社会的な生き物である人にとっては、“心”というものがより重視されるようになる。ロボットはあくまで人同士を媒介するツールであって、今後ロボットが普及するにつれ、“人の存在を伝達する新たなインフラが出来る”という未来の姿を語ってくれた。たとえば、昨今の働き方改革という中で取り上げられるテレワークでは、実際の職場にOriHimeロボットを導入すると、その場にいない人の存在感が周囲の同僚にもしっかりと認知・伝達されるようになるという。その結果、これまでテレワークのネックとされていた職場でのコミュニケーション不足などは解消されつつあるそうだ。

 奇しくも今回の起業家への訪問では、私たちの暮らしや社会の新たな土台となる環境を整えて、未来を創造していこうとしている方々の声が多くあった。紹介はしていないものの、最近のホットトピックでもある仮想通貨、その仕組みを担うブロックチェーン技術に関連する起業家の方々にもお話を伺い、新たなプラットフォームづくりという面からその取り組みは同様にみてとれる。
このようにみていくと、私たちを取り巻く環境に新たなインパクトが生じようとしているという確かな状況がある。もし、その上で繰り広げられる人々の生活の変化について、自分ならどのような将来を思い浮かべるだろうか。起業家にならずとも一人ひとりが少し先を考えてみることで、ぼんやりとしていた未来もどこか具体的にイメージできる大きなきっかけになるはずである。
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