COLUMN

2017.06.01矢野 博司

持続的なコミュニケーションのきっかけ ー ゆだねる勇気 ー

2017年4月から、新たに研究部の一員になりました。オムロンの未来シナリオ「SINIC理論」の理解を深めつつ、新たなソーシャル・ニーズの創造を目指していきます。今後ともよろしくお願いいたします。 

先日、私は、感覚の変化を楽しむため、ダイアログ・イン・ザ・ダークというイベントに、参加しました。その変化についてお話ししたいと思います。

ダイアログ・イン・ザ・ダークとは、暗闇のソーシャルエンターテインメントです。 
参加者は、光を遮断した空間の中へ、グループを組んで入ります。暗闇に入った直後は、歩くことさえ恐怖に感じます。あらゆる感覚を使って、周囲を把握しようとします。そこで、暗闇のエキスパートである視覚障がい者のアテンドにより、視覚以外の感覚の使い方や参加者とのコミュニケーションの方法を学びます。学ぶことで、空間を探検し、さまざまな活動を行うことができます。これらの体験を通して、参加者は、感覚やコミュニケーションの重要性、可能性を再認識することができます。

今回、何が何でも知見や成果を得てやろうという意気込みで参加しました。 
そのため、アテンドの誘導についても、どのような背景があるのか、このような言い方をすればうまく伝わるのではないか、などと考えながら、体験していました。空間の探索や移動を行いながら、自分の感覚を研ぎ澄まし、周囲を把握し、喪失した感覚を埋めようと努めていました。
体験を素直に受け入れるのではなく、考えることや恐怖を克服することが先に立ち、楽しめる状態になかったと思います。そのときは、非常に疲れました。

感じ方が変わった転機は、参加者が輪になって、ボール転がしを体験したときです。
暗闇でも使用できるように、鈴が入ったボールを参加者間で転がしながらキャッチボールします。参加者の名前を呼び合い、手をたたきながら、ボールを投げる方向を指示します。私は、ボールが大きくずれるのではないかと思い、大きな声で指示し、手を大きく広げて、ボールを待っていました。
ところが、相手が投げたボールは、すーっと受け取りやすいところに来て、簡単に受け取れました。驚きました。何度転がしてもらっても、うまく受け取れました。

この驚き以降、気分が楽になりました。
キャッチボールがうまくできたことをきっかけにして、自分が思っている以上に相手を信頼していいのだ、という感覚が生まれました。互いの行動をゆだね合うことに心地よさを感じた瞬間でした。自分自身が持っていた周囲に対する壁が取り払われ、グループに対する親近感や信頼感が増えました。また、グループに対しての感謝の気持ちだけでなく、この場に存在することやこの体験をしたことに対する感謝の気持ちも芽生えたと感じました。簡単なきっかけで、新たな感情が生まれました。

アテンドの言葉を深読みしたり、相手からのボールがそれることを想定して、大きな声を張り上げたり、自分の気持ちや行動を声に出したり、さまざまなコミュニケーションがあります。でも相手を信頼せず、探りながら、考えながらのコミュニケーションは、疲れますし、続きません。
ゆだねる勇気を持ち、相手を信頼してゆだねることで、疲れるコミュニケーションから楽なコミュニケーションへ転換を促します。その転換が、持続的なコミュニケーションの一歩になり、自分自身の壁を取り払えるのではないかと感じました。 

まずゆだねる勇気を持つこと。相手を信頼してゆだねることで、相手に信頼感や感謝が芽生え、他人からゆだねられる関係にしていく。そして、互いの思いや活動を通して共感し、ゆだね、ゆだねられるの関係を徐々に熟成、持続させていく。この熟成や持続が、人の自律を促し、新たな社会を形成していくのではないか。

私自身は、常にゆだねる勇気を持っているわけではありません。
でも、この勇気は、簡単なきっかけで得られますし、この勇気が共感を生み、持続的なコミュニケーションを可能とし、新たな関係を構築していく一歩と信じています。
日々、さまざまな体験をしていきたいと思います。
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