COLUMN

2017.04.03田口 智博

常識を取り払った発想にみる可能性

 2016年の後半あたりから社外の研究会やセミナーに出向いて、“新規事業の創出・開発”について議論や想いを巡らすという機会が個人的に増えている。過去にもそのような場は決してなかったわけではなく、今さらながらという面も否めなくはない。一方で、この手のテーマは一朝一夕には解消されない難題であることをあらためて痛感させられる。特に、これまで以上に将来が見通しづらく、変化が目まぐるしいここ最近の私たちを取り巻く社会環境においては。

 そんな変化を少しでも早くキャッチしようという動きの表れなのか、近年、毎年1月に米国・ラスベガスで開催される、コンシューマ・エレクトロニクス分野の世界最大規模の見本市CES(Consumer Electronics Show)では、日本からの参加者が増加傾向にあるそうだ。私自身も2015年に一度訪れた経験があるが、甲子園球場6個分という広大なスペースに3,800社を超える出展企業が立ち並ぶ。そのうち2割がスタートアップ企業という様相から、トレンドの把握にはもってこいの場であることも頷ける。
 出展者としてCESに5年連続でブースを構える、株式会社Cerevoの代表・岩佐琢磨氏は、「普段、取材をしてもらえないような世界有数のメディアが一斉にこぞって自社の製品を取り上げてくれる」というCESを通じた発信力を出展サイドのメリットの一つとして語っている。
Cerevoは、既存の製品ジャンルや使い方などの常識に囚われることなく、誰もがアッというような革新的商品の提供を目指すモノづくり企業である。彼らにとってCESはみずから製作したものを披露する絶好の場であり、それと同時にこのようなスタートアップ企業のアクション一つ一つが新たなトレンドの原動力になっていることは想像に難くない。

 そもそもトレンドを生み出すという、スタートアップ企業を中心とする新たなモノ・サービスの発想、そして具現化にはどのようなアプローチが鍵を握っているのだろうか。
 たとえば、もはや単なるトレンドとして片付けることはできず、社会の新たなサービス領域として定着が進む、UberやAirbnb、Lyftに代表される海外発のシェアリング・エコノミー企業が昨今、影響力を強めている。そのルーツの一つを辿ってみると、Airbnbは住んでいた家の家賃を払うお金がなく、家の一角を旅行者に貸し出したのが事業化のきっかけだといわれている。つまり、いち個人による問題提起から始まって、それを解決したいという欲求を満たすべく、従来までの常識を打ち破るソリューションが出てきた事例として捉えることができる。

 これまでイノベーションを創出する取り組みでは、デザイン思考やUXデザインのような人間中心のデザインプロセスが積極的に採用されてきたという動向がある。しかし、そうした新規事業開発の現場では、近頃、革新的なソリューションが出て来にくいなど課題視する声があちらこちらで上がっているという。
 こうした状況に鑑みて、最近のトレンドを生み出し牽引するスタートアップにみられるように、常識の枠に納まることなく、たとえば個人起点の問題提起から新たな事業創造を試みることが、発想のバリエーションを広げ、イノベーションの創出に結び付けてくれるのかもしれない。
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