COLUMN

2015.11.01田口 智博

"伝え方"を再考してみる


 ここのところ年々、プレゼンテーションの人気が大学生の間で高まってきているという。教育現場では、大学にとどまらず、中学校などでも授業でプレゼンのレクチャーを受ける機会があるように聞く。
 社会人にとっては、「プレゼン」と聞くと、仕事の一部のような印象をどうしても抱きがちである。商品やサービスの企画提案、調査やプロジェクトの成果報告――等々。
 
 プレゼンについて、多くの社会人が一般にそうした提案や報告のビジネスシーンを思い浮かべる中、大学生のそれは少し違うようだ。実際に大学生の声に耳を傾けてみる、すると彼ら彼女らが口を揃えて言うプレゼンのシーンは、 "TED Conference"と呼ばれるものであるからだ。
 YouTubeなどの動画サイトでも見たことがある人が多くいるであろう、TEDという非営利団体が主催する、学術・エンターテイメント・デザインなどさまざまな分野の人物による講演会。その特徴は、登壇者が聴衆に語りかけながらプレゼンを行う独特なスタイルにある。巧みな演出が凝らされていることもあってか、その場に居合わせずとも、動画などで目にしても見る側を惹きつける魅力があるのは確かだ。まさに、こうしたスタイルが、大学生を中心に影響を与えているというのだ。
 
 仕事では、なかなかTEDのようなプレゼンスタイルを取る機会がないことは、おおよその社会人経験があると明らかであろう。ただ、スタイルに多少の違いはあっても、プレゼンという意味では、その目指すところに変わりがあるわけではない。それは、聞き手の"心を動かす"、"行動を促す"ということに他ならない。
 
 最近、足を運んだリアルタイムドキュメンテーションの勉強会でも、話題の中心はまさに「伝える」ということであった。
 リアルタイムドキュメンテーションは、読んで字のごとしで、会議や討論の際、議論の展開とほぼ同時進行で記録をしていく。よくある議事録と異なる利点として、一つは即座に内容が共有でき、議論に参加しやすくなる。もう一つは、図やイラストなどのグラフィックの加わった整理が、議論の活性化につながる。こうした実現が可能となることから、最近では、IT系の企業を中心に議論の場で導入が進んでいるという。
 実際、既にこのような議論の視覚化の効果が、少なからず出てきていると聞く。たとえば、議論の参加者の意識が向上する、議論を拡散させて周りを巻き込むことができる・・・など。さらに、議論の場では、自分の発言が正しく伝わっているかどうかという確認にもつながっているそうだ。
 
 よく表現力は年齢が増すとともに向上するものだと思われがちだそうだ。しかし、実際には必ずしもそうとはいえず、たとえば、赤ちゃんは、言葉はしゃべれずとも泣き声を上げて、両親をはじめ周囲に明確に意思表示ができていている。
 こうして考えてみると、プレゼンにおける伝え方は当然のことながら、そこに至る議論をはじめとするさまざまなシーンにおいて、伝え方というものを再考する意義は少なくないだろう。イノベーションといわれるような、これまでにない斬新な発想や考え方への理解や共感、そして実現には、相手にしっかりと伝え切るということが避けて通れないのだから。
 
PAGE TOP