研究員コラム

2015.03.15澤田 美奈子

「食べた事も無いものすごいご馳走の味」を求めて ―『人と「機械」をつなぐデザイン』発刊―

 
この度、東大情報学環とHRIの約3年間に渡る共同研究会での議論を一冊にまとめた『人と「機械」をつなぐデザイン』を発刊した。オムロンの企業哲学「機械にできることは機械にまかせ、人間はより創造的な分野での活動を楽しむべきである」の新たな読み解きをすることを目的にした本研究会では、ロボティクス、マンマシンインターフェース、プロダクトデザインから、神経科学、哲学、心理学、人類学に至るまで、実に様々な研究者の方々のご協力を賜り、人と「機械」の関係性がどのように進んでいくのか、未来への見通しを立てるための知見を獲得することができた。実際それがどのような見通しであるのかは、ぜひ本書を手にとって確かめていただきたい。ここでは、本書の編集や研究会の運営に携わる中で感じたことを、少し角度を変えて述べることにする。
 
新技術開発などで企業が大学と連携するケースは近年よく見聞きする。だが、今回の研究会の目的は、新技術開発や事業に直結する知見獲得というよりも、未来社会に向けたビジョン・メイキングに、大学の研究者のみなさまからお力を借りることであった。
魅力的なビジョンは、魅力的な企業活動を生み出す原動力になるのは確かであろう。しかしビジョンづくりは難しい。現在の延長線上に簡単に描けるようなビジョンは、現状を変革し新しいコトを生み出していくためのパワフルなエンジンにはなりにくいし、あえて打ち出す必要もない。とはいえ、新たな一歩を踏み出せるようなビジョンを描け、と言われても、その一歩をいったいどの方向に踏み出せばいいのか、そう簡単に描けるものではない。
 
ある歴史漫画の中に、「新しい国をつくる主は、まず自分の食べた事もないものすごいご馳走の味を描くことから始める」というようなセリフが出てくる。ご馳走の味をつくるための食材や調理法を編み出すことが法や制度にあたるというわけだが、まずは未知のご馳走の味を描けるかどうかにかかっている。この言葉を借りると、ビジョンとは「食べた事もないものすごいご馳走」だと言えるが、どうしても企業の中で考えているだけでは、どこか「食べた事のあるご馳走」「誰かがつくっていたご馳走」「みんなが好きな食材でつくったご馳走」のような無難なビジョンに留まってしまうのが実際かもしれない。
 
ところが、大学の先生方との議論をしていると、「食べた事もないものすごいご馳走」がどんどんと示される。「人も機械も劣化こそ価値だ」とか「人を不便にする機械が幸せをもたらす」とか「機械をとことん奴隷にする」「人と機械とは合体するのが理想だ」といったビジョンは、企業内の議論からは、あるいは巷にあふれる市場動向やトレンド情報からさえ出てくることないものではないか。これらのビジョンは一見過激だったり奇妙だったりするのだが、実は深い洞察力と先見性に裏打ちされたものであり、やはり大学という研究環境や立場も大きく寄与しているだろう。「無難な味」からほど遠い刺激性と示唆性に富んだビジョンに遭遇する度に、私は企業と大学との共同研究の醍醐味をかみしめていた。
 
もちろん「食べた事のないご馳走」の中には、美味しいものとそうでないものもあるかもしれない。企業としては、「一部の人は大好きだがほとんどの人には嫌われるご馳走」よりは、「新しいけれど、きっと多くの人に満足してもらえるご馳走」が良い。そのような思いで、大学の研究者の描いた「ご馳走の絵」を見せてもらいつつ、われわれが描いたのが、本書の「おわりに」にも示している「人と機械の関係性の進化」のビジョンである。ビジョンのキーワードは「創発」「融和」そして「人と機械の自律」だ。
何せ「食べた事のないご馳走」なので、実際どんな味か、われわれもまだよくわかっていない。ただそのご馳走を多くの人に美味しいと感じてもらえる自信はある。ひとまずご馳走の絵は描けたところで、ご馳走を実現するための食材やレシピを探す段階に入っている。
 
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[書籍案内] 
人と「機械」をつなぐデザイン 
佐倉 統 編
四六版 312ページ 定価3,600円(税別)
 
 
私たちの暮らしを支え、社会を豊かにしてきた「機械」。しかし、「機械」の普及や過度な利便性の追求が「人間らしさ」に負の影響をもたらしたという一面もある。最前線で活躍する研究者たちとともに、「デザイン」という切り口で、人と機械の理想的な関係性を構築するための方向性を探り、より良い未来社会の姿を展望する。
 
【目次】
はじめに 人と機械の関係とは(佐倉 統)
第1部 人と「機械」の行方
01.       日常生活とテクノロジーの行方(暦本純一)
02.       コンピュータと脳の関係の行方(金井良太)
03.       対談:サイエンス・エンジニアリング・デザイン・アートの行方(八谷和彦×川端裕人)
04.       身体との調和に向かう義足の行方(渡部麻衣子・大野祐介・臼井二美男)
05.       座談会:義足とポスト近代的モノづくりの行方(臼井二美男・大野祐介・梅澤慎吾・山中俊治)
第2部 技術と環境をつなぐデザインの行方
06.       センサーと生活環境の行方(森 武俊)
07.       歩きやすさと都市環境の行方(山田育穂)
08.       デジタル・ネットワークと読み書きの行方(中村雄祐)
09.       デジタルファブリケーションとコミュニティの行方(田中浩也・渡辺ゆうか)
10.       イノベーションとデザイン思考の行方(澤田美奈子)
11.       科学技術とイノベーションの行方(網盛一郎)
第3部 身体と技術的環境の行方
12.       ロボットと心/身体の行方(石原孝二)
13.       対談:身体-環境系の行方(佐々木正人×佐倉 統)
14.       科学技術と人間の行方(佐倉 統)
おわりに 人と機械の理想的な関係を目指して(近藤泰史)
 
発行:東京大学出版会 TEL 03-6407-1069
http://www.utp.or.jp/

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