COLUMN

2015.02.15中野 善浩

21世紀のリスク

世界経済フォーラム(ダボス会議)は毎年1月、Global Risksという年次報告書を公表している。今年の2015年版で、スタートからちょうど10年目を迎えた。短期的リスクではなく、この先10年間、世界に大きな脅威をもたらすと予想されるリスクを明らかにし、幅広い分野のリーダーたちに協力や取り組みを促すことが報告書公表の狙いである。
どのようなリスクが発生する可能性が高く、どのリスクのインパクトが大きいのか。2015年版では、800人のリスクの専門家の参加により、28のリスクの分析が行われている。それによると、発生可能性が最も高いリスクが国家紛争であり、次いで異常気象である。一方、インパクトが最も大きいと見られているのが水危機で、それに続くのが感染性疾患の蔓延である。もちろん構造的失業などの経済リスクも上位に位置付けられているが、世界としては、いわゆる地政学リスク、環境リスクがとくに大きいと評価されており、この傾向は、報告書が最初に公表された2006年から大きくは変化していない。
 
 
 

リスクとは、ある行動に伴って被る可能性のある損害である。そして、ある行動は、その下地となる構造に起因する。したがって世界や社会の構造をとらえることができれば、リスクが発生する可能性、インパクトの大きさはある程度、見積もることができる。例えば、グローバルリスク報告書2007年版、2008年版では、資産価格の崩壊というリスクが、発生可能性もインパクトも最も大きいと見られていた。実際、2008年の秋にはリーマン・ショックが起こり、世界経済は大きく冷え込んだ。そして上述のように2015年版では、国家紛争が最も可能性の高いリスクとされていたが、残念ながら、それは現実のものになった。
グローバルリスク報告書によるリスクの見通しは的確だった。しかし、世界にとって大きな脅威となると見られているリスクは、この十年間、大きく変わっていない。リスクを見通すことができたとしても、リスクの下地になっている世界や社会の構造が強固なものであれば、それを変えることは難しく、果実も得られない。強固な構造に由来するリスクは、さしずめ「21世紀のリスク」と言えるかもしれない。今後、構造に対する理解をさらに深め、不断の取り組みを進めていくことが必要になるだろう。そして理解をより確かなものにするには、現地で得られる生きた情報は非常に重要であり、そこにジャーナリズムの存在意義もある。
 
故人になったが、勤め人でありながら、時間をみては世界中を旅する知人がいた。あるとき、彼はシリア北部の街を訪れ、潰れかけた石鹸工場の経営者と出会った。その工場のオリーブオイルの石鹸は、ありきたりな前のものとして、地元では高く評価されていなかった。しかし品質管理をしっかり行えば、日本で高く取引されると考え、行動に移した。一般の石鹸の倍以上の値段であったけれども、快適な使い心地が口コミで広がり、知る人ぞ知る人気の石鹸になった。彼の置き土産となった石鹸を購入することは、世界の構造の理解に結びつき、それを変えるわずかな力になるだろう。
シンク・グローバル、アクト・ローカル。言い古されたフレーズであるけれど、地球規模で考えて、自分ができることを実行することは大切である。
 
参考:Global Risks 2015
http://www.weforum.org/reports/global-risks-report-2015
 
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