研究員コラム

2014.11.15中間 真一

ES(従業員の満足)あってこそのCS(顧客の満足)~Service Design Global Conference 2014から~

 およそ1か月前になりますが、日本人3名の青色発光ダイオードを開発した3名の日本人がノーベル物理学賞受賞者として発表された当日、私は、現地スウェーデンのストックホルムで開催されていた、「サービスデザイン・グローバル・カンファレンス2014」に参加していました。
 
「サービスデザイン」とは、モノやサービスを通して、それを利用する生活者が経験する価値に注目し、その人と商品やサービスが関係する一連のプロセスの中で生まれる、様々な結節点(これを、タッチポイントと呼んでいる)を、よりよくデザインするための考え方や手法です。モノ単体にとどまらず、それから得られる経験全体をとらえようとするものであり、最近よく言われる「コト視点」からのビジネスデザインとも言えるでしょう。ヨーロッパを中心に世界中に活用の輪が広がっており、最近ではドイツの自動車メーカーなども積極的に取り組んでいるようです。
 
 今年で7回目を迎えるこのカンファレンスですが、年を追って参加者が増えているようで、今年は40ヶ国600名を超える人々が世界中から集まり、かつてスウェーデン王妃をドイツから迎えた際につくられたというビール工場跡の会場は熱気にあふれていました。
 
 今回のテーマは『Creating Value for Quality of Life』。北欧諸国が事務局となって企画されたカンファレンスらしい、未来志向のプログラムです。フィリップス社からのヘルスケアサービスにおける現地の生活風土を反映させることの重要性など、どれもこれも興味深い内容でした。その中でも、私が最もインスパイアされたプレゼンテーションは、Airbnb社のマーク・レヴィさんによる基調講演でした。プログラム上で彼の役職を見た時から「?」が浮かんでいたのですが、その役職は、Global Head of Employee Experienceというものです。直訳すると「従業員経験グローバル統括」とでも言えばいいのでしょうか?要するに人事部ってことかな?しかし、なぜサービスデザインの基調講演に?など、興味津々で耳を傾けたオープニングの講演でした。
 
 ところで、みなさんはAirbnb(bnb:Bed & Breakfast)をご存知ですか?私も、少し前に知ったばかりですが、旅の宿泊先の概念をガラリと変えるような、極めてイノベーティブな宿泊予約サービスサイトの運営会社です。2008年サンフランシスコで創業、現在では世界190ヶ国34,000以上の街で短期の滞在者に部屋を貸す人と借りる人をつなぐ急成長を遂げているサービスです。創業のきっかけは、サンフランシスコで開催されたイベントの際に、一瞬にして開催地周辺のホテルが予約満室となり、多数の人たちがイベント参加をあきらめなくてはならなくなっていることを、その地に住んでいた創業者たち二人が知り、「僕たちはエアーベッドも持っているし、ちょうど空き部屋もあるから提供しよう」と思い立ち、そのイベントが開かれる週末限定の宿泊サービス提供サイトをつくってみたら、すぐに異なる国からの3人の来訪者が決まったところに端を発しているのだそうです。そして、その来訪者たちは、ホテルでは味わうことのできなかった出会いの経験を歓び、空き部屋を有効利用できた側もメリットがあり、それならばとビジネスにしたというわけです。そのままサービスデザインのサクセスストーリーとしてもよいはずです。しかし、「従業員の経験」のマネジャーが、それを話すのでしょうか?
 
 それは、期待どおりに違いました。結論を明かしてしまうと、「素晴らしい経験価値をお客様に提供するためには、素晴らしい経験価値を味わい、日々さらに素晴らしい経験を積みながら働いているサービス提供サイドの働き手の存在が不可欠なのだ」ということだったのです。自身の家族写真から始まった彼のプレゼンテーションは、遊、学、働が打ち解けあった幸せな経験そのものという感じが伝わってくるものでした。私は、「あっ、そうだよな!」そして、「これって、いつの間にかサービスビジネスの中で後回しにされているんじゃない?」と、知らぬ間に消えかけていた大事なことに気付かされました。
 
 かつて、自分の旅行遍歴を思い返しても、素晴らしい経験を持ったガイドの方と出会えたいくつかの旅は、自分にとっても最高の経験価値として今も私の価値観の根っこにどっかり座っています。日本人のホスピタリティの優れた点を「お・も・て・な・し」と売り込んでいますが、それも、日本人一般の特性というよりも、日本の家族や地域社会、企業社会が培ってきた、思いやりの授受の経験から無意識にでも生まれるものであり、もてなす側のゆとりや経験の蓄積があってこそなせる業ではないでしょうか。
 しかし今、身の回りのサービスビジネスの現状からは、「ワンオペ」だの「ブラック企業」だの、働き手に強いられる過酷な経験の話題ばかりが見えたり聞こえてきたりするばかりです。
 
私は「QOLの向上への価値を創造するサービスデザイン」という今回のカンファレンスの基調講演として、なるほど!と感じてしまったのでした。それだけでも、ここに来てよかったというくらいに素晴らしい経験をできたのです。というわけで、この経験価値を、次の価値づくりに活かさなくてはと考え始めています。厳しい中であっても、「働きがい」は、そんなところから生まれるのでしょう。
(写真はSDN撮影)
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