研究員コラム

2014.04.15中野 善浩

もっともっと美味しい野菜がくる予感

 
先日、先進的と評価される農業生産法人を訪問する機会があった。質の高い農産物を合理的に生産し、直売所やレストラン運営、海外への輸出を行うなど、いわゆる農業の6次産業化を積極的に進める生産法人である。食品加工も手がけており、訪れた時には、まさに旬のホウレンソウの冷凍加工が行われていた。旬の野菜は栄養価も高く、美味しいのだが、その時期にすべてを消費しきれるわけではない。ならば保存できるようにし、旬以外のときにも食べられるようにする。非常に合理的な発想であるが、少し気になることもあった。
この農業生産法人で、冷凍加工されるホウレンソウの大きさは35~50cmで、小売店で販売される標準的な20~25cmを大幅に上回る。大きく育てることで、肉厚になり、甘み旨みが濃くなるそうだ。当然のことながら、大きなホウレンソウは、冷凍加工されたものを調理するより、生から調理した方が美味しい。ところが、この農業生産法人でも、小売店などに出荷するのは、20~25cmの小さなサイズで、大きなホウレンソウは出荷されていない。それは小売店が小さなサイズを要求するからだという。
旬の時期に大きく育ったホウレンソウはとても美味しい。肉厚でありながら、プリプリとした弾力があり、はっきりとした甘みがあって、ドレッシングなどの味付けは必要しない。某食品メーカーの「子どもの野菜の好き嫌いに関する調査報告書」によると、母親が「子どもに食べさせたい野菜」の第1位がホウレンソウだそうだ。大きくて甘いホウレンソウを食べた子どもは、きっと野菜が好きになるだろうし、食育の格好の材料になると思うのだが、残念ながら、たいていの消費者は手に入れることができない。
同じようなことは、他の野菜でもある。個人的には、キュウリも20cm強の標準サイズより大きめものの方が、しっかりした歯ごたえがあり、美味しいように思う。実際、大きいキュウリを好む人は少なからず存在する。ダイコンは、根より葉の方が多くの栄養分を含むが、葉のついたダイコンはほとんど流通していない。このように野菜の美味しさの提供という点では、消費者に万全が尽くされているわけではない。
 
大手チェーンが出店攻勢をかけ、大型化し、さらには営業時間も延長され、消費者は便利に買い物ができるようになった。そして販売者の事業規模が大きくなると、業務の標準化やマニュアル化などが進められていく。ある基準のもとで選択された扱いやすい野菜を、常に売り場に並ぶようにする。すると、どの店も品揃えは似通ったものになり、ともすれば価格勝負となる。消費者は、本当に美味しいものを口にしているわけではない。また、どこかに無理がいく。
 
商品開発というと大げさかもしれないが、野菜の美味しさを消費者に提供するという点では、大きな開発の余地はあると思う。そして近年、質にこだわり、個性的な店舗運営に取り組む中小の小売店も増えてきた。量や価格では大手に対抗できないため、質で差異化をはかっていく。高い質のものを確保しようとすると、数が限られるし、いつでも入手できるわけでない。また、本当に美味しいものは、短い時間で売り切れ御免になることもある。このような商売は、中小であるからこそ実行できるのだろう。
ど真ん中から来るわけではないが、もっともっと美味しい野菜の時代は確実にやって来そうな予感がする。早春に頃に、サイズの大きな生鮮ホウレンソウが店頭に並ぶようにもなるだろう(写真は大きく育ったホウレンソウ、3月)。
 
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