研究員コラム

2013.11.01田口 智博

観光振興にみる未来の先取り

 今年は台風の当たり年と言っても過言ではないくらい、台風のもたらす暴風雨が日本各地に被害を及ぼしている。現在も天気図を見てみると、29号がフィリピン付近を移動しようかという状況にある。幸い日本への接近は見込まれていないものの、1年間でこれほどの数の台風が発生するのは、実に2004年以来9年ぶりのことだそうだ。
そうした中、10月下旬に訪れる機会のあった大分県別府市のような観光地でも、台風による影響は少なくない。ホテルや旅館の宿泊施設関係者からは「観光客の宿泊のキャンセルが増えるばかりでお手上げだ」、「滞在中のお客さんがまったく身動きが取れなくなってしまう」などの切実な声が聞かれる。
 

 別府といえば、言わずと知れた温泉地として全国的に有名な地域である。実際、ピーク時の観光客数は、1976年に年間でおよそ400万人に上ったという。近年では、旅行のスタイルが団体旅行から個人旅行へと大きくシフトするなど社会的要因も相まって、現在その数は230万人程度となっているそうだ。
 国内の観光地に対象を広げてみると、多くの地域で例外なく、かつてと比較した観光客数は軒並み減少しているのが実情である。そんな現状をつぶさにみていく中、別府ではその減少割合がここ最近は他地域よりも低く抑えられているという。
 
 NPO法人ハットウ・オンパクの代表理事を務める鶴田浩一郎さんの話によると、別府地域ではバブル崩壊以降、温泉を軸に従来の「歓楽」ではなく、新たに「健康・ウェルネス」、「まち歩き」など地域資源を活かしたコンテンツづくりに取り組みはじめたという。最初は、大学の先生などにも加わってもらい研究会として検討をスタート。そこから2001年に「別府八湯オンパク」という、訪れる人々が現地で体験プログラムに参加できる活動へとまとめ上げ、実施を進めてきている。その取り組みは今年で13年目を迎え、毎年ニーズに見合う形でコンテンツに工夫を凝らし変化させながら、確かな観光マーケット創出を担うまでになっている。まさに、別府が誇る全国一の温泉の湧出量という地域資源を拠り所に、そこでの創意工夫された取り組みが功を奏しているのである。
 
 "新たにイノベーティブな取り組みができないだろうか?"というニーズは、観光分野に止まらず、社会生活や企業活動などありとあらゆるシーンで見受けられる。それを別府では、今から20年近くも前にいち早く旅行スタイルの変化を見越して活動を始め、息の長い活動として実践してきたところが特筆すべき点であるだろう。
 鶴田さんは、「観光振興とまちづくりは、基本的に指摘されることは同じ。ただ、どちらも10年ぐらい取り組まないと成果は出ない」という。そこには、未来志向で新たな着想を持って社会を捉えながら、現場起点の実践を長期で推し進め、加えてその良し悪しを客観的に判断できることが大きな要素となっているように感じる。こうした取り組みは地域や観光といったことにとどまらず、多くの分野で新たなイノベーションを考えていく上でのヒントになるはずである。
 
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