研究員コラム

2013.08.15鷲尾 梓

「きぼう」という名のロボット

 "kibo"(きぼう)という言葉が世界中のメディアを賑わせている。今月10日、「こうのとり」に搭乗して国際宇宙ステーション(ISS)に到着した人類初のロボット宇宙飛行士、「キロボ」の名前の由来である。「キロボ」という名前は、「きぼう日本実験棟」のきぼう、日本の技術力の希望、明日への希望、未来への希望とロボットを融合させたものだという。
 

出展:きぼうロボットプロジェクト http://kibo-robo.jp/home
 
 「キロボ」は身長34センチメートルと小さいながら、話しかけられた言葉を認識し、意味や使い方を学習するようプログラムされており、人との会話が可能な最先端ロボットである。蓄積された記憶をもとに会話の内容を類推して、幾通りもの返事をしたり、画像認識技術により、人の顔を記憶して判別したりすることもできるのだという。日本人初のISS船長に就任する若田光一宇宙飛行士との会話実験が行われる予定で、コミュニケーションができるロボットの存在が、長期間の孤独を強いられる宇宙飛行士にどのような影響を与えるかが注目されている。
 
 開発に携わった高橋智隆氏(ロボ・ガレージ社長、東京大学特任准教授)は、「15年以内に一人が一台のロボットと暮らす生活を実現したい」と語っている。実際、高橋氏が一般向けに開発した組立型のロボット「ロビ」(ディアゴスティーニ・ジャパンが創刊したロボット組み立てマガジン「週間『ロビ』」。約一年半で完結する全70号の分冊シリーズで、毎号付属のパーツを組み立てていくとロボットが完成する)は、入荷待ちが続出するほどの人気を見せているという。
 テレビをつける、時間を計る、踊る、など、ロビができることはそれほど多くはない。人気の秘訣は「利便性」というより、ペットのような「可愛らしさ」や「温かみ」、反応を期待して待つ「わくわく感」にありそうだ。
 
ロビを紹介する動画に、時間を計る場面がある。
「ロビ、タイマー」「OK。何分?」「1分」「じゃあ、1分たったら言うね」という短いやりとりなのだが、最後のひと言は「OK」でも事足りる。そこであえて「じゃあ、1分たったら言うね」というところに、「命令と応答」とは異なる、「会話」らしいゆとりが感じられる。同様に、「ただいま」というユーザーに対して、「おかえり。忙しかった?・・・おつかれさま」という受け答えにも、ほっとするような温かみがある。
 話しをする間の姿勢も、直立不動ではなく、身体のどこかを少しずつ動かすことで、より自然に感じられるようにデザインされているのだという。「ロボットと会話・・?」と疑問に思っていた私も、その姿を見ると、思わず話しかけたくなるから不思議だ。
 
 HRIが2007年に実施した「10年後の社会と生活」に関する調査では、10年後に家庭用ロボットの実用化や普及を「非常に期待する」「かなり期待する」と答えた人の割合は計39.1%。「ガン・感染症治療」や「家庭用発電システム」、「自然災害予知システム」の約7割、「自動翻訳」や「自動運転自動車」の約5割などと比較するとけして多くはない結果だった。それが今日、すでに形になろうとしている。
 
 ロボットが一家に一台、あるいは一人に一台、当たり前に存在する日はすぐには来ないかもしれない。本当の意味で「話し相手」になり、人間の孤独を癒す存在になるかどうかも、まだわからない。しかし、たとえば一人暮らしの高齢者の暮らしを近くで見守り、その笑顔を増やす手助けをする日は、私たちが想像していた以上に早くおとずれるのかもしれない。人の手がつくり出すロボットはその作り手の優しさ、願い、そして希望を背負って、どこに向かうのだろう。期待をもって見守りたい。
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