COLUMN

2012.12.15田口 智博

コラボがもたらす地域の持続可能性

 企業や地域の取り組みにおいて、最近は部門や組織・セクターの垣根を越えて、新たな価値創造や新規の事業・商品・サービス開発へのアプローチを採っているケースが少なくない。前回のコラムにある「第3の働き方」然り、社会のさまざまなシーンでコラボレーションによる活動が広がりをみせ、こうした動向には大きな可能性と期待が高まっている。
 
 11月に岡山県・真庭市を訪れる機会があり、そこでの話を少し持ち出してみたい。真庭市は岡山の北中部に位置し、鳥取県に隣接する山々に囲まれた自然豊かな場所にある。その取り巻く環境を最大限活かすべく、市では"バイオマスタウン真庭"という地域を挙げた活動によって、これまで産業観光や資源流通の拠点づくりに取り組んできている。昨今のエネルギー問題も追い風となって、現在その活動は第2ステージに突入し、バイオマス資源を活用した新たな事業展開、新産業創出に力が注がれているところだ。
   実際に、バイオマス集積基地を視察させてもらうなどして、各地から視察に訪れる担当者が絶えないという話も、なるほどと頷けるところが随所にみられた。話を伺っていると、真庭エリアは木材会社が17社、また製材所が30社あるという。なかでも、製材所は全国的にみると地域に3社程度が一般的だというから、この領域でのポテンシャルの高さが窺える。このような地域特性に加えて、台風等によって風倒木被害が生じた際、地域の力で片付けなど協働するといった人のつながりが代々受け継がれている。木材事業共同組合の活動が今でも上手く機能しているのは、まさにその表れだという。地域に根付いたコラボレーションの素地が、組合を軸に企業・行政の連携による全国に先駆けたバイオマス取り組みの原動力となっている。
 
 また先日、大分県の由布院温泉観光協会会長・桑野和泉氏の話を伺うことがあった。「自分たちが住み良いまちにすることで、訪れる人が出てくる」との言葉に集約されるように、観光が産業の中心である由布院では、地域が安定しないことには外から人を呼ぶことができないとの考えを大切にしている。
 現在、由布院には宿泊施設が169軒あるそうだ。そのうち、旅館組合への加入は93軒を数える。近頃は旅館組合に加入しない宿泊施設が増加傾向にあることから、そこではあらためて地域が一体となる必要性が指摘される。そもそも由布院地域は30年前までは奥別府由布院と呼ばれ、他と比較しても今日ほど名の通った地域ではなかったという。今や年間70万人もの宿泊客が訪れ、うち6割がリピーターという地域である。まさに、おもてなしと空間づくりの成せる業であることに違いない。そんな由布院のもつ温泉地ならではの地域性を大切にしていくため、新たな仲間とも取り組みを共有・連携し、次世代へ受け渡していくことが強く意識されている。同時に、食やアート・映画をはじめとするさまざまな分野とのコラボレーションの輪も広げて、さらなる質の高い空間づくりにも余念がない。
 
 地域の持続可能性について考えていく場合、そこでは、具体的に「何を残していきたいか」、また「何を創り出していきたいか」といった思いの共有は欠かせない。しかし、それらを実際にアクションに移すには、限られたリソースでは思うようにことが運ばないケースが少なくない。"既存のつながりを活かす"、そこに"新たな仲間を加える"、そして"次世代へと継承していく"というコラボレーションの流れを作り出していくことは、長期的視点で地域の大きな財産となるはずである。
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