COLUMN

2012.12.01鷲尾 梓

「個人」と「企業」の間の「第3の働き方」

 フリーランスや起業家、企業に所属していてもオフィスに縛られない「ノマド(遊牧民)ワーキング」が可能なビジネスパーソンが増えるにつれ、事務所設備や会議スペースなどを共有しながらそれぞれの仕事を行う新しいワークスタイルが注目を集めている。「個人で働く」と「企業で働く」の中間領域「コラボレーションして働く」という「第3の働き方」である。こうした働き方を支援するオフィス環境・サービスを提供する「コワーキングスペース」が今、増え始めている。
 「コワーキング」は2006年頃からサンフランシスコを中心に始まった。働き方や働く場の自由度が高まる一方で、ホームオフィスにおける孤独感や疎外感、個人で実現できる仕事の範囲や量、発想の限界などが問題視されるようになってきたことが背景にある。「コワーキングスペース」では、働く「場」やツールを提供するに留まらず、利用者同士のコラボレーションを誘発する様々な「しかけ」を提供することが試みられている。
 たとえば、デザイナーや建築家、アーティストなど異業種のクリエイターのためのコワーキングスペースを都内4カ所で提供する「co-lab(コーラボ)」では、各利用者が働く「スタジオ」が扉のないオープンな長屋的な関係でつながり、交流やコラボレーションを発生しやすい空間設計がなされている。また、メンバー同士をつなげ、刺激し合うプログラムとして定期的にプレゼン会を開催するなど、各種交流会、イベント、ワークショップを実施する。外部のクライアントからの依頼を受けてプロジェクトチームを編成し、各利用者の専門性・クリエイティビティーを引き出して恊働するディレクションも行っている。そのうちの一つ、「TATAMO! これからの畳をつくるプロジェクト」では、畳の需要が減り、技術を受け継ぐ職人も減る中で、パネル型の畳マットという新たな畳の形を考案し、商品化した。
 孤立した個人でもなく、ヒエラルキー型の企業組織とも異なる、個人と個人のゆるやかなつながりから成る「集合型」の働く場、働く仲間のあり方。そこには、従来にはない発想や、新たな価値が生まれる可能性を感じる。まだ「コワーキング」の歴史が浅い日本では、コラボレーションを生み出す日本人に合った「しかけ」の工夫が重要な鍵となるだろう。
 社会学者のリチャード・フロリダは、「クリエイティブ都市論--創造性は居心地のよい場所を求める―」の中で、創造的に発展する都市は「クリエイティブ・クラス」(専門職、管理職、クリエイター)への求心力が高いと述べている。大都市に限らず、地域に魅力的なコワーキングスペースを設けて都市の発展を支える人材への求心力を高める動きは、今後ますます活発化していくのではないだろうか。
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