COLUMN

2012.11.15内藤 真紀

7:3の原理 挑戦を支える熟慮と信念


オムロン創業者である立石一真は、経営に関するさまざまな言葉を残したが、「7:3の原理」もその一つだ。現在のオムロン社員の間でも屈指の人気を誇るこの言葉は、7割の成算があれば勇気を出してまずやってみよ、ただし残り3割のリスクに対して必ず救済策を考えておくように、という意味である。傍からみれば「無謀」「常識はずれ」なバカなことを、成功に導く手法とリスク要素に対する備えというスマートさで支える。バカとスマートの共存は、事業や経営にも通じるものなのだろう。
「7:3の原理」の背景には、試行錯誤を重視する考え方がある。「理屈ばかりで何もやらなければ、経営はうまくいくはずがない。まずやってみて、誤りがあれば正していく。試行錯誤、これぐらいの気持ちでやって、ちょうどよいくらいである」(『立石一真の経営革新塾』ダイヤモンド社)。
 
先日話を聞いたあるNPOの経営も「7:3の原理」を感じさせるものだった。人口減・高齢化、産業・雇用の場の減少、生活サービスの低下などの課題を抱える東北の温泉地で、「食」「農」をテーマとした地域課題解決に取り組んでいる。事業内容は、大きくコミュニティ・レストラン(地域の高齢者向けのバランスの取れた食事提供と交流の場)と弁当宅配事業、農園(レストラン等の原材料栽培、子ども向け体験学習)の3つ。いずれもそれまで経験もない、地域に前例もない取組みである。
このNPOは、「地域に必要なもの、自分たちでできるものを探して事業化してきた」と語る。行政のモデル事業の指定やその他の補助事業、助成金等を活用し自主財源からの支出を抑えたり、大学や地元企業、他の事業を展開するNPOと連携して彼らの専門性を活用したり、リスクの最小化にも努めてきた。一方で、補助事業を利用して試行した事業が経営的に無理があることがわかれば、事業期間の終了により収束させ、形を変えての事業化を検討している。「まずやってみて、試行錯誤する」スタイルを促しているのは「地域の課題を解決する」というミッションであり、「地域の課題は変化する。時代に柔軟に対応してこそ課題の解決につながる」という考え方だ。
 
ある社会企業家も、先日聴講したフォーラムで次のような発言をしていた。「いま、『何かしなければ』とアクションをはやる若者が多い。でも自分の経験からすると、現在のベースになっているのはアクションを起こしたことではない。長い間一人で『自分は何者か』『自分は何をするべきか』を考え続けたことだ」。この日本を代表する企業家は、「途上国から世界に通用するブランドをつくる」をミッションとし事業を展開している。「売れるわけがない」「イスラム教徒が主体の国で、日本人のしかも女性が事業なんて無理」などの数々の反対意見のなか、さまざまな試練を乗り越えて、いまやバングラデシュに80人の工場をつくり月間4,000個のバッグを生産、日本と台湾に直営店を構えるに至っている。
 
勇気を出して挑戦する、試行錯誤をする。実際にできるかどうかは、確立された考えがあるかにかかっているのだろう。立石一真には、「失敗を肥やしに次の事業を育てる」「加点主義」「失敗を恐れるな、ただし同じ失敗を繰り返すな」などの言葉もある。やってみること、失敗から学ぶことを尊ぶ姿勢の裏には、そこにベンチャーであり続ける鍵があるという信念があったに違いない。
 
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