COLUMN

2012.06.15田口 智博

「変化」の芽生えるきっかけづくり

 "みせる・示す"ということに関して、前回の鷲尾さんのコラムでは、「実演してみせる」、「見通せるようにする」、「気持ちを伝える」といった3つのアプローチの有効性が、お子さんとの日常のやりとりから、気づきとして記されていた。誰しもが日頃、相手は問わずとも意思疎通を図りながら暮らしていることを考えると、そのようなみせ方、示し方についての再確認は「なるほど」と思う。
 
 同じように、企業における広報を例にとってみると、テレビCM等では映像などに乗せてメッセージを発信する(=実演)中に、事業の取り組み背景となる志(=気持ち)、またその先へとつながる眼差し(=見通し)を伝える戦略が織り込まれていることが少なくない。かつて、自動車メーカーでは、エコカーの市場投入に際して「クルマなんてなくてもいい、とある日思った」という投げ掛けをしていた。車の負の部分を認めつつ、消費者目線に立って環境に配慮した社会づくりに取り組んでいく事業姿勢が示されていた。今では、街中を行き交う車をみても、すっかりエコカーが当たり前といえる時代に様変わりしつつある。企業活動においても、どのようにみせ、また示せるかが変化を創り出す知恵の絞りどころであるといえよう。
 
 ところで、地域振興の取り組みでは、地元の良さをよく知る人物が、みずから率先してアイディア豊かな仕掛けを考案し、実践しているというケースが多く見受けられる。地域の人々を上手く巻き込みながら、一大ムーブメントとして活動が予想以上の広がりをみせていることもある。
 以前、英国の都市・グラスゴーを訪れた際、現地の地域活性化の取り組みについて話しを聞くことができた。そこでも、やはり地元への強い愛着をもつ行政担当者が中心となり、さまざまなプロジェクトを主導していた。グラスゴーでは歴史・文化など地域資源にスポットを当て、人々がそうした理解を深め、教育や産業をはじめ多方面に活かされるように地域一体での活動に力が注がれていた。ユネスコのクリエイティブ・シティにも認定され、まさに取り組み成果が現れつつあるところだ。こうした場合、いかにしてきっかけを示し、さらに周りの参画を得ながら変化を生み出していけるかが、持続可能な地域づくりを左右しうる。
 
 HRIではこれからの社会や地域を考えていく一環として、昨年より日本経済研究センター主催の『希望と成長による地域創造研究会』に参加している。研究会では、住民など地域社会の担い手が希望と連帯感を抱きながら、地域活性化にチャレンジする仕組みづくりを目指そうとしている。
 研究会の「地域アイデンティティ分科会」主査である東京大学社会科学研究所教授・玄田有史氏は、「希望学」の研究などでよく知られている。氏の指摘によると、「幸福」は維持・継続していくもの、一方、「希望」は未来に向かって変わるもの。地域の未来に希望を持つためには、さまざまな面で変化を起こしていくことが重要になるという。
 未来に向けて新しく何かを生み出していくため、変化が欠かせないのは確かであろう。そうした変化について、どのように起こしていけるかがポイントとなる。それには、企業活動あるいは地域振興にせよ、人々の賛同・共感を得て、行動を促すということが当然求められてくる。最近はさまざまなところで「無関心」や「諦め」といった言葉が聞かれるが、まずは私たちが人や社会への関心や興味を今より高めることが大切になってくるであろう。そうすることから自らの思いや考えを再認識することができ、それぞれに変化を起こしていくきっかけが芽生えてくるはずである。
 
なお、前述のグラスゴーの事例については、研究会2011年度報告書に掲載されており、ご関心をもっていただけたなら下記の日経センターHPを参照願いたい。
 
*日本経済研究センター 希望と成長による地域創造研究会 
「地域アイデンティティ」研究分科会2011年度報告書
 
※記事は執筆者の個人的見解であり、HRIの公式見解を示すものではありません。
 
以上
PAGE TOP