COLUMN

2011.12.15鷲尾 梓

シリーズ「ポスト3.11のあたりまえ」#6「生きる力」を子どもに

「火遊びをしよう」「目かくしで1時間すごそう」
 米国で評判になり、今年5月に翻訳本が出版された「子どもが体験するべき50の危険なこと」(ゲイバー・タリー著)という本が、予想以上に反響を呼んでいるのだそうだ。震災後、危険を知るということ、自らの身を守るということについて、あらためて考える人が増えていることが背景にある。

「あたりまえと思ってきた暮らしが、あたりまえでなくなる場合がある」「子どもの身に何かが起こったとき、そばにいてやれるとは限らない」・・・その危機意識が、もっともプリミティブな意味での「生きる力」を見直す動きを後押ししているように思う。

 11月に国立青少年教育振興機構が公表した調査では、小学6年生の4割はキャンプをした経験がほとんどないという。文部科学省では来年度から、小中学生が地域の人と一緒に学校に1〜2泊する「防災キャンプ」を試験的に始めることにしている。水道やガス、電気を使わず、夜は校庭や体育館にテントを張って寝る。まきの火で非常食を調理し、油性ペンをロウソク代わりに使う知恵なども学ぶのだそうだ。

 HRIでは未来社会研究の一環として、その担い手である子どもの学びに焦点をあてて、「てら子屋」ワークショップを実施して来た。そのなかに、水道もガスも電気もない、携帯電話の電波も通じない山小屋で夏の5日間を過ごすプログラムがあった。
 参加する多くの子どもたちにとって、そのような環境で生活することはもちろん、親元を離れて数日間を過ごすことも初めての経験だ。リュックサックの陰にすっぽりと隠れてしまう小さな子どもたちの姿を前にすると、この子どもたちが5日間を乗り切れるのだろうか、と不安を覚えずにいられなかった。
 しかし、そんな心配をよそに、子どもたちは初めての経験をひとつひとつ、自分のものにしていった。沢からひいたホースから水をくみ、火をおこして食事の準備をする。ヘッドライトの灯りを頼りに「ボットントイレ」に行く。手づくりの五右衛門風呂に入る。彼らの親も経験したことのないようなこともあっただろう。5日間を終えて見送るとき、子どもたちの背中はひとまわり大きく見えた。
 短期間のことだ。火のおこし方や、テントの張り方といった技術的なことは忘れてしまうかもしれない。しかし、初めてテントで寝たときのどきどきする気持ちや、「自分で火をおこした」という自信は子どもたちの心に残っているだろう。

 危険や不便から遠ざけていては、いざその事態に直面した時に自らの身を守れない。大人がそっと見守る中で、子どもたちが小さな「冒険」をできるよう、意識して機会をつくっていきたいものだ。それは災害時に限らず、子どもたちが生きていくうえでの大きな財産になるはずだ。
 私自身は、タリー氏の掲げる「50の危険なこと」のうち、半分を経験しないまま大人になってしまった。あとの半分はこれから、子どもと一緒に挑戦してみよう。
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