研究員コラム

2011.08.01田口 智博

シリーズ「おひとりさま社会考」#2これからの社会を支える価値あるもの

 "おひとりさま"という言葉は、どこか女性が一人で自立した生き方をしているというイメージでの使われ方が少し前までは中心であったように思う。しかし、実際問題として、今の社会でいうところのおひとりさま化は、「女性だ」「男性だ」とは言ってはいられないのが現実である。
 自分を含め同学年の30代半ばに差し掛かろうかという男友達たちを見回しても、"おひとりさま"である期間が確実に昔よりも長くなっていることが実感できる。したがって、統計によると、30代半ばから後半にかけての男性の未婚者はおよそ3人に1人というが、その割合にも、「そんなものだろうな」と特段驚くことなく受け止めてしまう。

 未婚者が年々増えているという状況が浮き彫りになる中、以前には社会学からその問題にアプローチしようとする動きが結構話題になっていた。
 中でもこうした流れに関して、社会背景から分析を進めていた事例が記憶に残っている。それによると、未婚者の増加は、前近代から戦後、現在へと時代が変化する過程で、社会のさまざまな規制がなくなり自由度が増すことによって生じる弊害として指摘されていた。例えば、ひと昔前であれば、結婚とは家同士のものという意味合いが色濃く反映され自ずと成立していた。ところが、そうしたものが薄らいでしまった今日、自由であるにもかかわらず、結婚しない人が増える現状に陥っている。まさに、時代の移り変わりの中で、急速に増した自由度が、上手く活かせていないとみなされるという。確かに、いろんな時代を生きていれば、自身の置かれている環境の有り難味はよくわかる。しかし、今の時代しか知らなければ、改めて「自由とは何か」と考えることの方が珍しいであろう。まして、そのことを誰かから教わるという機会もそうそうないことが想像される。

 ところで、これからの社会で大きな問題となってくることの一つは高齢化である。前述のような社会の自由度に関係なく、人は歳を重ねることでさまざまな面で不自由さが出てきてしまう。
 そんな中、5月の末に、特別養護老人ホームの介護士の方に、働く様子を見学させてもらえる貴重な機会があった。そこには、足腰を悪くして車椅子生活を余儀なくされる、あるいは認知症を抱えているといった高齢者の方が主に入居されていた。なかには、家族がいて"おひとりさま"ではないにせよ、やはり身体面での介助が欠かせない状態で、施設に頼らざるを得ないという方も少なからず目に留まった。高齢化問題は必ずしも家族がいればどうにかなるというケースばかりでなく、まして"おひとりさま"が増え続けている状況では、社会全体としてどのように対処していくかという切実なテーマになる。

 見学や話しをさせてもらいながら、今回の施設で驚きであったのは、「最初からこの施設で働き始めたスタッフに限って言うと、皆、辞めることなく働き続けていますよ」という介護士の方からの発言であった。ここでは、世間一般で言われているような介護職の離職率の高さは今のところないそうだ。確かに、仕事の様子から、入居者へのケアはもちろんのこと、スタッフ間でも夜勤の主担当の方は、サポート担当の方にはなるべく負荷がかからないような配慮をしていた。お互いの労わりやチームワークのようなものが、近くで見ているだけでも伝わってきた。

 前回、中間さんのコラムで、おひとりさま社会を「支える」サービスについてこれまでのように成立するだろうかという指摘がなされていた。その最たるものの一つが介護であるように思うが、現時点でも相当厳しい分野であることが知られている。ただ、今回訪れたところでは、サービスの提供者同士のつながりにより、施設という小規模の"おひとりさま社会"を支えることができていた。経済面での負荷などは他の施設と同様に抱えているであろうが、こうした施設に見られるスタッフ同士のつながりという価値あるものを絶やさぬようにしていかなければならない。そして、そうしたものに対して多くの人が目を向け、価値を見出すことがこれからの社会を考えていく上で最も大切なことになってくるはずである。
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