所長の独白

2020.04.23

人間関係のニュー・ノーマルへ

新型コロナウイルスの感染終息は容易ではないことを世界中が感じつつある中、なんとか私たちの自律、連帯、創造で、この厄難を乗り越えたい、その片隅で私自身も役に立っていたいという想いが強まる在宅勤務のこの頃です。

そのような中、私たちヒューマンルネッサンス研究所(HRI)の生みの親であり、このようなユニークな未来社会研究所を長年にわたって支えてきてくださった、オムロン名誉顧問の立石義雄さんが、過日、新型コロナウイルスによる肺炎にてご逝去されました。オムロンの経営、その後の、京都商工会議所会頭としての足跡を改めてたどり、この義雄さんこそ、父である一真さんが構築したSINIC理論を最も大事にし、未来ビジョンの価値を大切にしていた方は他にいなかったことを感じ入ります。HRIの所長として、恩返しをしなくてはという矢先のことだけに、悲しみも深く大きく、謹んでご冥福をお祈りいたします。

かねてより、義雄さんは「最適化社会は、セカンド・ルネッサンスやなあ」と仰っていました。人間らしさ、一人ひとりの生きがい、働きがい、社会全体が、テクノロジーの支えの上で、再び「人間復興」に向かう時代なのだと確信して、オムロンや京都産業の未来ビジョンを語られてきました。その、かつてのルネッサンスも、14世紀にヨーロッパの人口の約3割を失ったペスト感染の先に到来したものでしたが、セカンド・ルネッサンスの旗手もCOVID-19で逝ってしまったことを、しっかりと受けとめ、受け継ぎ、この厄難を乗り越えて次の時代を見定めることこそ恩返しかと思っています。

義雄さんは、訃報の新聞記事でも取り上げられているように、本当に人間味あふれる方でした。私が、それを最も感じたのは、なんと「握手」でした。分厚い手のひらでギュッと握られて「中間さん、よろしく!」と真正面からの目ヂカラで、ずっしりとお声がけいただく握手、また、私のような者にまで差し出してくださる献杯の盃、こういうオープンハートの所作から伝わってくるものを強く感じていました。

一方、世界中では、この厄難を越えるために「孤立化」や「封鎖」など、クローズ規範に向かっています。私も、勤務先の品川駅港南口を通勤する光景がテレビニュースに映されるたびに、「まだ、こんなに大勢の人たちが通勤を余儀なくされているのか」と、今では憤りさえ感じるほど、今はなんとか「3つの密」の回避を一致団結してすべきことを主張したい立場です。「あなた自身が、すでに感染しているという前提でふるまいなさい」というマナーにも強く共感します。

しかし、未来研究という立場からの心配、関心時は、厄難を乗り越えた先の「ニュー・ノーマル」です。3つの密の回避は、幸せなセカンド・ルネッサンスへの新しい倫理観、行動規範になるだろうか?という点です。このことを「今」この渦中で考え始めると、とても辛いものがあります。人間関係の「親密さ」は、より直接的な交換にあるのも事実であり真理だろうと思うからです。人に近寄らず、マスクで表情が隠れ、コミュニケーションが困難になる中で、バーチャルな人間関係の充足へのテクノロジーが発展します。これはよいことでもあります。

私は、厄難を乗り越えた先に、こういうことが「ニュー・ノーマル」、新たな倫理観、行動規範にはならないでほしいと、やはり願ってしまいます。非常時には、歴史の流れが一気に加速されます。その先で、常態化した方がよいこと、回復した方がいいこと、これを選択するのも人間社会ですから。なんとか、なんとか、今はこの厄難を越えていきましょう。この独白が、自分への励ましになってしまったことをご容赦ください。
たまたま、このコラムを目にしてくださった、みなさまの健康を、こころからお祈りします。
中間 真一
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