所長の独白

2020.03.20

世界中に猛威を振るい、多くの尊い命も奪い続けている新型ウイルスの感染拡大については、とにかく早い終息を願うばかりです。このウイルスの感染は、肺炎という身体への脅威と共に、人々の心にも感染して世界的なパニックをも拡げています。心身両面への恐ろしい感染力で人間社会に大きなダメージを与えています。この現実に直面している今、未来への歩み方を考えました。

私たちオムロンが未来への羅針盤とするSINIC理論では、人類史の原初である原始社会から自然社会に至る社会周期の大きな1周期の中で、2つの大きなパラダイム・シフトのステージが位置づけられています。1つ目は中世から近代への移行、2つ目は最適化社会から自律社会への移行です。

1つ目の移行期は、14世紀から16世紀まで続いたルネッサンスの時代です。ルネッサンス期を経て、世界は人間らしさ、人間の知恵、創造性が解放され、工業社会の入口に向かったわけですよね。

2つ目は、なんと現在進行中の最適化社会です。なので、私たちHRIの初代社長である立石義雄氏(オムロン名誉顧問)は、かねてより、最適化社会を「セカンド・ルネッサンス」と呼んで未来を構想していました。その最適化社会の渦中にある今、私たちはそのくらい大きな移行期を生きていると言えるわけなのです。

では、14世紀からのルネッサンス期は、どんな時代だったのでしょうか?調べれば調べるほど、それは安定、安心、安全とはほど遠い社会だったようです。その代表例が、半世紀にわたりイタリアを中心にヨーロッパ全土に感染を拡大させ、大勢の死者を出した黒死病(ペスト)の流行でした。まさにパンデミックです。

しかし、このペスト流行が終息した後に、ヨーロッパはイタリアを中心にルネッサンス文化の最盛期を迎え、人間復興を成就させました。ペストがその後の社会に与えた影響については、多くの研究もされていて興味深いものです。例えば、人口の急減によって労働力市場は売り手市場となり経済的に豊かになったり、農民の居住が流動的になって農奴にたよっていた荘園制度が崩壊したり、社会権力の最上位にあった教会はペストを防げずに権威失墜したり、そういう結果として新しい価値観が形作られていったのです。

このことは、自律社会という「一人ひとりの人間の真の変容無しには到達できない社会発展」に向かう現在と、まさに重ねて見ることのできることではないでしょうか。

もちろん、冒頭に記したとおり、私も現下のウイルス感染拡大の終息を強く願っています。しかし、それは「戦争」として勝利、制圧すべき敵ではないかもしれないという気持ちもあります。

私は鴨長明の諦観の生き方に憧れます。まさに、「方丈記」の出だし「ゆく河のながれは絶えずして、しかももとの水にあらず」です。もちろん、ワクチンや治療薬の開発も強く望みます。私たち人類の知は、ルネッサンス期に半世紀かかった終息期間を劇的に短縮させるでしょう。その中で、私たち人類社会がウイルスと共に生きている地球環境という観点、日本文化ならではの諸行無常の構え、動的平衡に棹をささない感覚も持ち合わせてはどうかと感じるのです。

その向こう側に、自律社会、自然社会という目指すべき豊かな未来が見えてくるのではないかと期待してしまうのです。
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