MONOLOGUE

2020.09.02

人とAIの協調

 これまでも、これからも、「人と機械の関係性のゆくえ」はHRIの大切なテーマです。その成果の一つは、今、オムロンが対外的にも発信しているコンセプトの「人と機械の融和」という方向性です。その手前には、「人と機械の協調」があり、出発点には「人と機械の代替」があるわけです。

 この私たちのコンセプトの潮流に基づくと、今現在進行中なのは「協調」となります。そして「融和」の兆しも見え隠れしている時代という位置づけです。みなさんの生活実感、仕事の実感として、いかがでしょうか?「三密の回避」など、長期化しそうなコロナ禍において、人と人のリアルな協調が難しくなっている中で、人と機械の協調、融和という技術コンセプトは、少なくとも加速されているのではないでしょうか?

 ところで、この「代替」⇒「協調」⇒「融和」の3ステップを表現する上では、「何が?」という主語があります。代替は「機械が」人の行為を代替する。協調は「人と機械が」協調する。融和は「人が」機械と融和する。これは、「自動化(オートメーション)の主人公」を表していると考えています。そう考えると、これから到来するだろう「融和」の主人公は「人」なのです。あくまでも、機械中心ではないのです。

 そういうことを考えながら、この問題に取り組んでいるのですが、海外の研究記事の中に、最近、ちょっと引っかかりを感じたものがありました。タイトルは”AI is learning when it should and shouldn’t defer to a human”です。AIは、どんな時に人に従うべきなのか?というもの。MITのコンピュータサイエンス・人工知能研究所(CSAIL)の発表です。おもしろそうじゃないですか?

 一言で紹介すると、人とAIが連携すれば、それぞれ個別の判断よりも優れた成果が上げられるという研究結果です。医療の診断において、診断機器システムも診断結果を出すが、最終的には人が診断する。そのシステムと人の診断を最適につなぐアルゴリズムが無い。そこで、本当に人間が診断を下した方がよいのか、そうでないのか、それをAIが判定するアルゴリズムを開発して、最終的に最適な診断と治療法の選択ができるようになるというものなのです。研究では、以前よりも短時間で正しい有効な診断ができる「人とAIのつなぎ」が可能になったとしています。

 要するに、人の先入観による誤りと、人の経験値や勘による総合診断の正しさ、どちらをとるべきかを、AIが判断するというものです。ということは、最終的にどっちかを判断するのは、人の知恵のスゴさを知っているAIということになります。

 みなさん、このことをどう考えるでしょうか?私は、これを読んだ時に、「運命」とか「宿命」とか、そういう人間の営みゆえに生じていたコトが、無くなっていくのかもしれないと感じました。とりあげた研究は、まだまだ初歩的な研究のようですが、こういう開発がこれから進んでいくのですね。人の生き方も変わります。人と機械の協調、そのための「機械仕掛け」のあり方は、やはり、人の進歩志向意欲を増すことが大事になるはずです。岡田美智男先生の「弱いロボット」論に通じるところではないでしょうか。そしてまた、ヒトは新たな「適応」が必要になるのでしょう。この是非は議論してもしょうがないんじゃないでしょうか。人の営みの結果から生まれるのだし、そもそも生きとし生けるものの宿命なのですから。

ヒューマンルネッサンス研究所
所長 中間 真一
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